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子荻「…なんですかこの廃墟」


「僕が現在住んでいるアパートだけど?」
「…ここが、住居ですか?」
「一応ね、しかも結構人気がある。なんと驚き空室が無いくらいだからね」
「それで、貴方は私にここに住めと?」
「うん、まぁ一応ね。身寄りがないんでしょ? 僕が言い出しっぺなんだから責任くらいはとるよ」

 六月末、僕は松葉杖を突きながら骨董アパート前で以上のような会話を交わした。
包帯でぐるぐると巻かれた状態の先のない右手首を制服の袖から見せる子荻ちゃんと。

 二階の奥、みいこさんの部屋を過ぎて短い廊下を少し歩いた先の僕の部屋。
ポケットから出した鍵で扉を開けて中に入る僕と子荻ちゃん。

「…絶句ですよ」
「いや、まぁ確かに狭いけど家賃めちゃくちゃ安いし結構いいところだよ?」
「一時的なアジトとしてなら兎も角、ここを住居として長期的に使用するだなんて…」
「つっても僕は特に家電製品とか所有しない人間だからね」
「…絶句ですよ」
「二回も絶句しなくてもいいんじゃないかな…」

 今月頭に哀川さんと僕で行った首吊高校潜入作戦。
そこで起こった事件はまだ記憶に新しい。
姫ちゃんと子荻ちゃんも、その悲しいほどに被害者で、切ないまでに加害者で、
僕は、自分のできることを、できる範囲で、できるだけやり、
その結果が、子荻ちゃんの生だった。
あの場で、僕がとっさに彼女の襟を引かなければ、
彼女はバラバラの肉塊に変わり果てていただろう。

 「自分の行動の結果としての状況、その責任」。僕は哀川さんとのその後の対談によって
姫ちゃんの方はともかく子荻ちゃんの方は完全に自分でどうにかしろと言われた。
ついでに姫ちゃんはまだ入院中。

「まぁ流石に布団くらいは用意するけどさ、新しく君のためだけに部屋借りてあげるほど
 僕って裕福なわけじゃないんだよね。無職の大学生だしさ」
「確かに貴方も働くには不向きそうですからね」
「お互い様だよ、いまは」

 松葉杖の僕と片手をなくした子荻ちゃん。
どちらも労働には向かない体調である。
…まぁ子荻ちゃんはそんなことを言った訳ではないだろうけど。

 座布団もなにもこの部屋にはないので、
とりあえず子荻ちゃんには床に直接座ってもらう。
お茶だそうにも茶葉もヤカンも湯のみも無いので代わりに水をコップに入れて置いてみた。
ものの見事にシカトされた。う~ん。

「しかしいまさらだけど、よくもまぁ素直についてきたね子荻ちゃん」
「は? どういう意味ですか?」
「いや、子荻ちゃんなら得意の策で逃げようとも思えば絶対に追跡不可能な位に
 僕から逃走できただろうと思ってね。ただでさえ僕は松葉杖で君は足自体は自由だ」
「…そうですね。あえていうならば、タイミングを見失ったんですかね」
「タイミング?」
「貴方を殺すタイミングも逃し続け、貴方の口車に乗っかり、そして結果私はここにいる。
 逃げるタイミングもなにもかも、いまの私にはないんですよ。だから、一種の諦めです」

 力なく肩を竦めて見せる策士。
それは取りようによっては戯言遣いに対しての敗北を認めたようにも取れる。

「…そうとってもらって構いません。私は確かに貴方に敗北し貴方に救われた。
 貴方がついて来いと言ったからついて行くし、貴方がここに住めというならそれも承諾しましょう」

 肩にかかる長い黒髪を左手で払って、
疲れたような微笑を浮かべる子荻ちゃん。

「それに、私もあなたに個人的な愛情を向けていますし」

 …、あぁそういえばそんな会話もした気がするかな。
というかその誤解は解かれてないままなのか。
ぼくとしてはまぁ展開が楽そうでいいのだけど、
たらしになったみたいでそれはそれでやだなあ。

「…まぁいいけどさ。それについては色々とノータッチでいた方が
 ぼくも子荻ちゃんも幸せだと思うんだ、個人的に」
「なるほど、確かに互いに愛情を向けあう年頃の男女がこんな狭い部屋に同棲というのは
 世間的にも問題がありますからね。その辺はとりあえず不問ということで」
「…」

 ぼく個人としては同居か居候、
もしくはルームシェアなんてのも今時で良いなと思うのだけど、
戯言遣いたるぼくとしては策士の彼女の発言を尊重する形で。
ぼくと子荻ちゃんの同棲生活が始まった、と言っておこうと思う。

 …しかし子荻ちゃん。
確かに好みだとは言ったけど、こうも素直に好意と受け取って
しかもあんなにもぼくが嘘つきでペテン師で詐欺師で戯言遣いだと言ったにも関わらず
なんの疑いもなくぼくに好意を向けるというのは、策士としてどうなんだろう?
やっぱり環境の所為で恋とかと無縁だとそういったところは純粋なのだろうか?
…正直ぐっと来ます。

「よろしく、戯言遣いさん」
「…よろしく子荻ちゃん」

―――

 ということで同棲生活一日目。
この場合、上記の流れから一夜たっての明くる朝のことを指すと思ってもらって構わない。

「おはようございます」

 ぼくがこの間まで使用していた布団から目を覚ます子荻ちゃん。
当然だが彼女をぼくの家に連れてきてその日に布団一式を買える筈もないので、
子荻ちゃんにぼくの布団を一時的に譲渡したのだ。

 さらに当然だがぼくはその横で一緒に、なんて展開はさらにある筈もないため、
床に直接着の身着のまま眠る羽目になった。
首やら腰やらが痛むが、そこは若さとキャラとハートが大まかカバーだ。

「おはよう子荻ちゃん、ボロい布団でごめんね。よく眠れたかい?」
「…あなたの匂いがしました」
「そっかー…」

 どういう反応すればいいのかわからず、適当に流してしまった。
正直辛すぎる、素なのはわかるけど突っ込みたくて仕方がない。
掛け布団に軽く寝ぼけた顔を埋めて小さく呟く制服の女子高生に突っ込みたくて仕方がない!
巫女子ちゃんが入れば捻りの効いた鋭い突込みを即座に入れてくれるだろうけど、
ぼくには生憎そういったことには疎いのだ。

 というかなんだその恍惚の表情は、
いいからぼくの布団からでてくれないかな子荻ちゃん。
匂いがした発言とかその格好とか色々と色々なんだよ。
なに初体験後の朝みたいなその雰囲気。やめてよ。

「えっと子荻ちゃん?」
「…はい?」
「とりあえず朝食でも食べる?」
「えぇ、いただきます。けどなにも食べ物の香りがしませんよ?」
「残念だけどこの家には調理器具の一つもなくてね。
 子荻ちゃんの着替えとか色々買うついでに外に食べに行こうかと思って」
「そうですか、わかりました」

 ある程度会話を交わす短い間に意識は覚醒し終えたのか、
布団からひょいと立ち上がって両手を上げてのびをする子荻ちゃん。
やっぱり胸が大きい。強調されるような形になってより一層。

「…なにか不穏な気配を感じました」
「気のせいだと思うよ」
「そうですか?」
「そうです、間違いなく気のせいだよ、子荻ちゃんもちょいとお疲れ気味で感覚が鈍ってるんじゃないかな?」
「…」

―――――


「それでさ、学校はどうしようかって話なんだよね」

 ぼくは朝食と昼食を兼ねた食事、
お洒落に言うならブランチをファーストフード店で取りながら
向かいに座ってコーヒーを啜る子荻ちゃんに話しかけている。
ぼくらが座る席の間には少量の衣服と小物。
いつだったか巫女子ちゃんの買い物に付き合ったときの
購入した量と比較すると明らかに少ない。
というのも子荻ちゃんがそんなに外にでることもないし、
不経済の無駄遣いだからと、必要最低限以外のお洒落着や嗜好品を
まったくといって良いほどに程に手に取らなかったからだ。

「それは澄百合、のことですか?」
「いや、そうじゃなくて。べつのそこらの普通の高校だよ、
 日本じゃ高校までが義務教育みたいな所あるからね。
 女の子だからそこまで深刻になることもないだろうけど、
 やっぱりでておいたほうが今後の生活にも影響あるし」
「…興味ありませんね。一般人がやる勉学を私が必要するとでも?」
「ま、そうだよね。だったら直接大学なり行った方がいいよね」

 関係ないけど子荻ちゃん、買ったばかりのスリムジーンズとTシャツというラフな格好。
やっぱり澄百合の制服は目立つ。

「…そもそもこの腕でどうやって勉学に励めと?」

 包帯が解かれること無い、その右手首。
ぼくも両手の指を十本の内九本折ったことがあるけれど、
しかしそれとはやはり比べられないのだろう。
骨折は治っても、切断した部位は生えたりしない。
それにぼくは両利きだけど子荻ちゃんは違う。
義手をつけるにしてもリハビリとか色々お金も時間もかかるし、
そう上手くはいきやしない。

「…ごめん、少し無神経だったかな」
「べつに構いません。不自由はありますけど、その内慣れるでしょうし」
「…」

 少し、打ち解けてきた気がしていただけに
この沈黙はむやみやたらに気まずく重く感じる。
完全にぼくのハンドリングミスだ。
どうにか子荻ちゃんに笑顔を作らせないと。

「あー、そうだ。じゃあなんていうのかな」
「…なんでしょう」
「永久就職ってのは…?」
「……は?」

 さらに沈黙。
墓穴を掘った上に、脱出しようと横穴を掘ったら水源見つけて溺れた感じだ。
ストレートに自爆。ぼくは馬鹿か。

「…」

 子荻ちゃんはいぶかしむ様に、というかもろにぼくをいぶかしんでいる。
目を細めてぼくをじっと見て身動きひとつしない。
ここで「なんちゃってー!」なんて言ったらまた場の空気も変わるのだろうけど、
しかしぼくはそんなキャラじゃないので黙ってコーヒーを啜るにとどめる。
子荻ちゃんだけならいざ知らず、赤の他人にまで白い目を向けられるのはごめんこうむる。
チキンと呼ぶがいい。

「…昨日はノータッチと言っておきながら、次の日にはプロポーズですか?」

 そんなつもりではなかった。
いや、確かにそう聞こえないでもないけど。
女の子には結婚という道もある、という一つの話だったつもりなんだ。
やっぱり子荻ちゃんはそういうところがストレートでピュア。
可愛らしいけど扱いづらい。…これも策なのだろうか?
…ないな。

「いやいやいやいや! そうじゃない、そうじゃないよ子荻ちゃん
 ちょいと勘違いしているみたいだけど、べつにプロポーズとかそんなんじゃない。
 まさか! まさかだよ子荻ちゃん! そういう手もある、そう言おうとしただけでね、
 べつに結婚しようって誘ってるつもりじゃないんだよ。本当に。
 君ならぼくが嘘をついてるかどうかくらいわかるだろ?
 わかるよね? うん、よかった。実に助かるよ子荻ちゃん。
 それだけ聡明なら安心だ。まさか貧乏でその日暮らしな大学生と
 その場の流れに流されて結婚してしまうようなへまはしないだろうとぼくは安堵するばかりだよ。
 子荻ちゃんのことだからきっとその慧眼を持ってして格好よくて金銭にゆとりのある
 性格も素敵で君を守ってくれる正直な男性を見つけるだろうと思うよ。
 まぁ、ぼくも正直という点じゃそこそこいい線言ってると思うんだけどね、
 だけど他の面じゃどうしようもない奴だよぼくって人間はさ。
 毎日が苦労と苦悩で一杯で息抜きの一つもできないような生活になってしまう、
 そんなのはごめんだろ? わかったらぼくみたいな甲斐性無し以外にいい男でもだね…」
「…私はべつにそれはそれで悪くはないと思いますが」

 あぁ、どうしよう…。



 一拍、子荻ちゃんが硬直して手に持ったままだったカップをなんとか口に運び、
音もなくソーサラーに戻す間の静寂。
そして子荻ちゃんは言い聞かすように口を開く。

「…それに私はあなたに個人的愛情を向けてるといったはずですよ?」

「…あのさあ子荻ちゃん。
 好き、とか嫌いとか、そんなものは人も食べ物も同じなんだよ、
 突然ひっくり返るし、ふとした拍子に入れ替わる。
 特にぼくみたいな奴は、少し踏み込めばすぐに後悔する」

「それは私が決めることです。
 私は別に裕福も余暇も求めてません。そんなもの、必要ありませんから。
 婚姻というものは、そういったものではないのでしょう?
 それに繰り返すようですが、あの高校に通い殺戮を知り、
 こんな腕をした私を誰が求めるというのですか?」

 …いくらでもいる、とか、まぁそんな気休めの言葉を吐こうとして。
黙った。騙すのも誤魔化すのもぼくの独壇場でぼくの十八番だが。
なんとなくそうするのを躊躇ってしまった。
理由は、わからない。

「私は、好いた人と共に居たいという気持ち。
 それを互いに持ち、行動に移した結果が結婚という形だと解釈してます。
 あなたが私にこの前言った言葉は嘘ですか?」

 だからそれは君の勘違い、誤解、錯覚、気のせい。
そう切り払うことは容易く、そして非常に困難だった。
どうするか悩み、そうしてできた空白の時間にだした正直者たるぼくの答えは。

「嘘じゃないよ、君がそれを望むのなら。………結婚しよう」
「…あは」


―――

 そんなこんな。
なるようにならない災厄はぼく自身も巻き込んで、
まさか驚き子荻ちゃんと結婚とい一つの結果をたたき出し。
幸か不幸かお互い法的に結婚できる年齢の為。
あっさり役所で婚姻届を頂いて、
しっかりぼくと子荻ちゃんが必要項目を書いて、
さっくりと役所に提出して。

「お前さぁ、確かに行動の責任取れとは言ったけど
 いきなり結婚は流石にどうかと思うぜ?」
「ぼくもまさかこんな形で身を固める羽目になるとは思いませんでしたよ」
「まぁ、お前がいいならいいけどよ。
 あぁそういや一姫も退院して今日あっこの一階に向かわせたから、よろしく」
「は? …あぁ、そういやそうでしたね。哀川さんが―」
「だーかーらー。苗字で呼ぶなっての、いい加減覚えろよ」
「…潤さんが先に借りたから、子荻ちゃんがぼくの部屋にきたんでしたもんね」
「そ。だから一姫のこと頼んだぞ。
 …っとそれと一応、おめでとう、か?」
「さぁ、多分いいんじゃないでしょうか」

 あの後、言ってもいないのに知ってる哀川さんとの会話がこんな感じだった。
哀川さんが知ってるということはまぁ、玖渚も知ってるんだろうなーって勢いで、
ぼくは直さんに殺されやしないか冷や冷やしながらぼくは生活している。

「ぼぅっとなにしてるんですか?」
「盤無し一人オセロ」
「…はぁ」

 勿論それは一人ではなく、非常にできた嫁さんと一緒である。
家はまだ骨董アパートであるが、
サクッと策士のお陰でずいぶんスペースが有効に使われるようになった。
少なくとも衣食住がきっちり賄われて、住居と呼べる程度には、なった。

「あ、これ手伝ってくれませんか?」
「りょうかい」

 子荻ちゃんは器用というかなんというか、
非常に万能で、炊事洗濯掃除にと完璧にこなしてくれる。
ぼくは見てるだけだ。
…いや、たまに手伝うくらいはする。

 いまだってほら、食事の為の食器をだしたりしてる。
…ぼくは小学生か。などと思っていると、
ボロい蝶番が外れる勢いで玄関が勢い良く開いて、反動で閉まった。
もちろんぼくは見てみぬ振り。

「ししょー! なにやら恋しそうな匂いが!」
「普通に再度開けて入ってくんな。
 てかどんな匂いだよ恋しそうな匂いって、
 是非教えてもらいたいよその匂いの探知方法」

 姫ちゃんが匂いにつられてやってきた。
さっきのいい間違いは普通に考えたら…。ま、美味しそうな匂いだろうな。
というか、ぼくは気にしないけど一応対外的にはぼく新婚。

「あっ! 師匠、もしかしてパジャマですか!?」
「いや、もう昼過ぎだし。普通にジーパン履いてるじゃん。
 まぁ邪魔かってんなら別に気にしなくていいけどね、今更だし」
「さて一姫、突然ですが働かざるもの?」
「空腹で野垂れ死ね?」
「人情もなにもあったもんじゃないな」



 ぼくと子荻ちゃんと、姫ちゃん。
二人ともアパートの住人とはそれなりに仲良く、
そこそこに楽しくやってるようなんだけど。
魔女から言わせれば家族ごっこ。
崩子ちゃん曰くままごと。
この状況というか環境というか、疑問を抱かれてるのは間違いないと思う。
ぼく自身が確信を持てない以上、それに対してなにを言えるわけでもなく。

「ししょー」
「うるさいよ、ちょっと黙ってて」
「あなた」
「うん? なにか用かな?」
「あからさまな態度のさです!」
「いや、当たり前だと思うけど…」
「師匠を死傷させますよ!?」
「こえぇ!」

 それでも、歪ながらも、少しでもぼくがこの状況を楽しいと思えてるなら。
とりあえずはそれでよしとしよう。そう思う。

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何かほのぼのしてていいなー
この調子で一姫といーのSSも頼むよ

ところでここってリンクフリー?

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