五月


 歌が聞こえた気がした。
子供の頃、日が沈む時間、どこからか聞こえてきたあの歌が。

 とても綺麗な歌声だった。
人魚が歌っているのではないかと思うほどに。

 僕はそれに釣られる漁師の様に、
いつもの散歩コースを外れて近くの公園に歩いていく。

「……~~♪」

 だんだんとはっきり聞こえる歌。
いや、近づいてわかったけれどこれは正確には歌じゃない。
歌詞なんてなく、メロディを口ずさんでいるだけ。
僕の記憶の中にも歌詞はないし、もしかしたら歌詞のない曲なのかもしれない。

「~~♪」

 涼しげで、凛として、穏やかな気持ちになる声。
どこかで聞いたことのあるような声。
その声の持ち主の背中が見えた。

 声を掛けたい衝動に駆られたけれど、
そしたらきっと歌は止まる。
だから僕は黙って少し離れたベンチに腰掛けて
その人をただ黙って見つめ続けていた。

 影が伸び、辺りが暗くなるまでその人は歌い続けていた。
それを僕はただただ眺めていた。

 やがて、僕は自分が泣いてる事に気がついた。
そして同時にこの歌が悲恋の曲であることを思い出した。

 恋に破れたのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
勝手に僕が想像を膨らましすぎたのかもしれない。
わかっていても涙が止まらなかった。悲しいわけでもないのに。

 その人は歌い続けて、僕は泣き続けた。
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