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僕等は「USB」と「平塚」に捕らわれているようです  2フォルダ目

僕等は「USB」と「平塚」に捕らわれているようです


―――

 僕の家はそれなりに広い、そして普通だ。
でかい塀に囲まれた屋敷や、放置車両と比較するまでも無く普通だ。
二階建てのアパート、その一階端の家が僕が借りている家だ。
この場合借りているというのは賃貸という意味ではなく、
勝手に上がりこんで住居として使用させてもらってるという意味だけれど。

「重畳な話ですよね、まったく」

 3DKと一人で使うには少々手に余る広さのこの家は
細く入り組んだ路地の奥、わかりにくい場所にある。
三つの部屋のうち、私室として使っている部屋で
僕は真っ黒なUSBを一台のノートPCに繋ぐ。
 カーテンの無い窓から入り込む月の光と、
モニタだけが光源の暗い部屋。
照明がないわけじゃないのだけれど作業中はつけないのが僕の流儀なのだ。
目が悪くなるだけで利点なんて無いのだけれど、
これもやっぱり癖なのだ。悪癖ほど、直らない。

「…特に何もありませんね。予想外にお金が入ってるのが救いでしょうか」

 モニタに表示される多数のフォルダ、ファイル
多様な情報、多数の武器、多種のスキル、多量の金銭。
新しく増えた七十八のファイルのうち、
すでに所持しているもの、不要なものを取捨選択してDeleteしていく。
結局残ったのは金と三つのファイルのみ。

「おしまい」

 USBを抜いてパソコンを閉じ、照明を付ける。
部屋にはPCとそれを置いてる机と椅子、そしていくつかの本が床に直置きになってるだけだ。
私室などと言ってもその程度、このなにもなさが心地よい。

 ここいらで一度唐突に突然にUSBというものに関して説明を行わせてもらう。
いや、説明と言っても誰になにを言うわけじゃない
僕の数ある中毒の一つと考えてもらって構わない。
僕は独り言の際、それを他人にそのまま聞かせても意思疎通ができるように、
言い間違いの訂正、例の複数開示、原因、過程、結果、考察、
といった具合に独り言を演説のように構成させて行っている。
馬鹿らしくもある行動なのは承知の上なのだが、
しかし自分の思考をまとめて整理するには役に立つ。
そういった感じで一つUSBについて考えてみる。

 USBというのは基本的にはPCに繋いでデータのやり取りをする
携帯型大容量記憶機械であることに間違いは無い。
小さく、百円ライターと同等の大きさで、
色や形状にそれぞれ多少の差異があるそれは。
しかしこの平塚圏内でのみ、もう一つの用途を持つ。

 それが人間のデータ化。
所持者の知識、経験、記憶、所得物、金銭。
それを全てデータ化してUSBに仕舞い込む。

 所持者は首筋にポートを持っている。
身体に埋め込まれたそれにUSBを差込み、
中に入っているプログラムをインストールすれば、
所持しているユーザーはなんでもできる。
僕のUSBに入っているフォルダ総計は八百五十四。
その場に応じてプログラムを起動させれば、
この世の全ての移動兵器を自在に動かせたりもする。

 わかりやすく言うなればマトリックスの世界だ。
データを組み込めばなんでもできる。
まぁ違いはこの世界は機械の中ではなく、あくまでも現実で、
僕ら人間は生身の身体を持っていて制約を色々と受けているということだ。
だからビルとビルを飛んで渡る事などできないし、
何も無い空間に乗り物や銃器などを出現させることもできないし、
ましてや自分のデータをコピーして百人のスミスになることもできない。
全は一、一は全などと言っても個は個で個でしかない。
そして、普通はあまりないのだが、
収集欲や金も含めた物欲等の強欲によってそのデータを奪おうとする輩がいる。
そしてUSBを奪われ破壊されればその所持者は命を絶たれる。
法の五つ目、その意味はこういうことだ。
日本国内特殊自治領域平塚。

「…面倒ですよね」

 複雑すぎるのだ。
なにもかもが。
そりゃ無縁仏の情報を拾ったりとか、
遺棄された死体の処理とか、
殺人事件の被害者の記憶を探って犯人特定したりとか、
役に立ってるのも知っている。
…って挙げた例が全部生殺に関わってるってどうなんだろうか。
まぁわかりやすさを求めた結果であって僕の嗜好が出たわけではないと判断して、
目を領域内に戻せばこの有様。
盗人善という人間を返り討ちにした今日の僕の行いだって、
罪に問われることなく、無事として処理される。
処理されるというか、処理されない。
なにもなかった、そう無視される。
あの遺体は掃除屋のじいさんかなにかが拾ってごみと一緒に焼いて終わり。
盗人という人間が同じように過去にデータを奪った七十七の人間だって、
やっぱり同じこと。焼かれ爛れ跡形も無く消滅する。
存在としても、書類上でも。
完膚なきまでに亡き者を無き者にする。
ただでさえ平塚内の人間は日本という国に存在してないことになっている。
首都圏神奈川の一都市、平塚の対外的に流れてる情報。
過度の過疎によるゴーストタウン、人口ゼロ。
それが国外に知られてる平塚だ。

 僕は抜いたUSBにキャップをして、
ポケットにしまってつけたばかりの電気を消す。
もう就寝、という訳ではなく夜食の一つも買いに行こうということだ。
買いに行く。つまりそれは物品を売っている場所がある訳で、
売買が成立してるということは経済も成立してることを表す。
ま、表した所でなにがどうこうって訳じゃないけれど。
少なくとも僕にとっては。

 僕が空腹を覚えていて、僕がお金を持っていて、
外には空腹を満たす食料を売ってる場所があるということだけが僕にとって大事なのだ。
そしてこの街に住む誰もが、理解している。
だから、この街でも問題なく店は営業できる。
ここがなくても他に行けばいい、なんていうことができない街だから。
そこが確実な僕等の生命線だから。
襲撃をかます人間なんて皆無にして絶無。

「行ってきます」

 僕は誰も居ない空間に向かって呟いて、家を出た。


―――


「つまりさ、茶屋はなにがしたいのかってことだよ」
「僕がなにをしたいかですか?」
「お前はなんか色々とやってるじゃないか」
「それはそうですよ、十人十色。みんながみんな色々やってます。
 個人的に言わせてもらえれば一人一色なんてのはありえないから
 十人百色って感じです。あ、千差万別と言ったほうがいいですかね?」
「いや、そんなことはどうでもいいんだよ。
 俺が言ってるのは茶屋がなにか俺とか鰐待に隠し事をしてるということだ」
「隠し事はお互い様ですよ。大体完全に自分を他人に知られるなんて空恐ろしいこと誰だってしませんよ。
 自分自身ですら騙し騙しやってきてるんです。
 人に嘘を付いていけないなんてそんなの無茶苦茶ですよ、生きるなってのと同義です」
「だからそうじゃないんだよ茶屋。君は塀を破壊しようとしている」
「鐚走の家のですか? それはとんでもない、ずいぶんと荒唐無稽な話ですね。
 僕になんの利があってそんな強行に及ぶのですか」
「違うってば、聞けよ人の話しを、殺すぞ」
「やめてくださいよ、怖いですから」

「お前はこの平塚の塀を破壊しようとしているんじゃないのか?」
「僕個人の力でどうこうできるようならこんなに大量の人間がここに閉じ込められたりしませんよ」
「まぁ、そりゃそうだけどさ。でもやっぱりお前って違うじゃん」
「違うとは? 外部から来たとかですか?」
「じゃなくて、根本からさ」
「言ってる意味がわかりませんね。汲み取れません」
「なんて言うのかな…。えっと、ここに人間っていう機械媒体があるわけだよ」
「はい」
「んで、骨格があって、回線繋いで、モーターくっ付けて、コンピューター乗っけて、バッテリー乗せて、一つ組みあがるわけだ」
「ですね」
「で、それぞれ人間の個人で出力が違う訳だよ。構成物質の違いとかさ、モーターの威力とか、色々」
「トルクチューンとレブチューンみたいな感じですね」
「そんで飯食って燃料補給して、眠ってCPU冷ましてハードディスクにデフラグかけて」
「なるほど」
「お前はさ、その当たり前を凌駕しちまってるんだよ」
「凌駕ですか」
「なんかさっきの例えだとハイパーダッシュみたいな感じ、
 電池もニカドとかマンガンとかじゃなくてリチウム電池見たいなの積んでてさ」
「それは確かに凄いですね、驚嘆です」
「だけど失格。凄いけど失格、というか凄いから失格って感じだな」
「鐚走に言われると軽く死にたくなりますね」
「いいんじゃないの? お前は死んだほうがいいだろ」
「鏡をみて同じことを言っててください」

――――


 目が覚めると午後だった。
僕は元々長時間寝ないと動けない人間なのだが、
昨日は別段遅く寝たわけじゃないのにこれとは
とうとう僕の万年寝たろうも堂に入ってきた感じだ。

「…入りたくありませんね。素直に嫌です」

 しかし嫌な夢を見た。
夢というか、記憶、思い出に近い何か。
その癖これだけ長時間寝てるんだから、
この部屋の空気中には睡眠ガスの成分が散布されてるんではないだろうか。
…ないだろうな。

「あー…、しばらく鐚走には会いたくありませんね。
 あと一ヶ月は会話したくなりませんよこれは」

 僕の海馬が蓄積している鐚走との会話の記憶の中で、
最も気分が悪くなるのを再生して、僕の脳はなにをしたいんだろうか。
不必要な記憶はとっとと削除して欲しい、
それこそUSB内の他人の記憶みたいにサクッと消せたら楽なんだろうけど
自分自身のデータが入ってるフォルダだけはどうにもできないからな。

「…とりあえず紅茶でも入れましょうか」

 プリンス・オブ・ウェールズ
アッサム系のブレンドでストレートで香りを楽しむのが基本。
キッチンにある数少ない道具、その中の大半は紅茶関係の道具。
ティーサーバーに缶から取り出した茶葉をキッチリ軽量スプーンで量り投入、
お湯を入れて蒸らしつつ昨日買い物した袋からクッキーをとりだす。
安物でも何でも茶請けが無いとダメな僕。これも中毒。
というよりこだわりと言うか、意地みたいな話。

 何故僕が紅茶にこんなに嵌っている理由はわからない。
嫌いなものの理由は聞いても構わないが好きなものの理由は聞いてはならない、
それは某姉弟が言っていた。
某姉弟など、軽くぼかしたのは、
単に台詞と姉弟ということ以外覚えてないからだが、
はて、あれは一体なんだったろうか?


 徒然なる思考に身を任せながら、
居間に向かって僕はギョッとした。
表情や態度にはでてなかっただろうけれど、
しかし驚愕、というレベルの驚きを僕は感じていた。

「どちら様でしょうか?」
「…」

 返事が無い。
けれど二本足で起立してこちらを睨んでくるような屍はこの世にないだろう。
ゾンビだとかなんだとかが存在しない限り生者の筈で、
ならば僕に対して反応を返せるだろう。

「あの、勝手に上がられると困るんですけど」
「お前はこの家の所有者ではないだろう。勝手に上がりこんでるのはお前も同じだ」
「…まぁそうですけど」

 なんだろう。
確かにその通り、正論もいい所なんだけれど。
なんか納得いかないなぁ。

「茶屋、だったか。茶屋だったよな?」

 僕が立ってる位置と正逆。
向こう側の壁に沿う形のシンクに寄りかかるようにしていた誰かさんは、
僕の苗字を呼びながら一歩こちらに近寄ってくる。
時と場合によっては警戒するべき事態。
というか家に侵入されてる時点で警戒するべきなのだろうが、
僕はあまりこの時点ではそういった感情を抱いていなかった。
それは敵意がないとわかった。なんて格好いい理由だったりではなく、
単に思考が状況に追いついてないだけだったりするのだけれど。

「そうですけど、なにか僕に個人的な用でも?」
「ん、そうだな。そうだ、用があってきた」

 僕に用事がある。
つまり僕に会いにここにきた。
ということはこの場所に僕が住んでいることを知っている。
それを知っているのは基本的に鐚走と鰐待オンリーだ。
…ふぅん、やるじゃん。

「ところで茶屋、聞きたい事があるんだ。聞きたいことがあるんだよ」

 前述のように、そしてこの人物が言っているように
僕は正式な手続き(この場合は単にUSB自体と平塚全体の
データバンクに登録すること、になる)を行っていないので
調べようとして調べられることじゃないのだけれど。
というか当然のように僕の名を呼ぶなぁこいつ。
呼び捨て。

「なんでしょう?」
「お前、紅茶好きなのか?」
「…えっと」

 そうだけど。
もちろん好きだけど。
なんでこのタイミングなのかな?
この人は僕の葛藤など知らぬ存ぜぬでダンボールに詰められた
大量の茶葉が入った缶を物色しているし。

 いや、本当、勝手に人のコレクションに触るなよ。
中身が空になっても缶はとって置くんだからな僕は。

「で、どうなんだ?」
「いや、好きですよ当然」
「そうか、ならよかった」

 一人頷き、部屋の中心あたりに腰をおろす、
おろす…。なんだろうか?
一応服の上からわかる身体の線や身長を加味すれば、
女っぽいのは理解できるんだけれど。

「紅茶を入れるところだったんだろ? 私にも頼む」
「…はぁ」

 図々しいというか、意味がわからない。
けど、とりあえず僕は意味のわからさに流されてしまわないうちに。

「で、あなた誰なんです?」
「桃透、絶ナかな。桃透、絶ナだ」

 それ人の名前かよ。
…僕が言うなって話か。


 まぁ、こんな感じで、登場人物が揃ったのだ。
揃ってしまったのだ。
揃わなければ、始まらずに済んだというのに。


―――


 発端と終焉は同じ場所で迎えるべき。
というのは確か鐚走が言った言葉だった、
…いや、鰐待だったかもしれないし、もしかしたら僕だったかもしれない。
まぁ誰が言おうと、結局言葉の意味自体は変わらない、
変わるのは真実味と重みだ。

 曰く、人間というのは奇跡である。
生から死へ向かう中で多種多様な線を描いていく。
何かが、始まったところから線が始まり、終わった所で途切れる。
それだけなら単に一本のなにか、地面に落ちた糸くずの形のような、
なんだかよくわからないものだけれど。
しかし、始まりと終わりが同じ場所であるならば、それはなにかを囲む円になる。
丸くなくても、なにかを囲む区切りとなる。

 そしてそこに囲まれたものが、経験とか、思い出とか、糧になる。
けれど、誰でも最初の場所なんて忘れて右往左往。
結局どこにも辿り着けずに終わっていく。
好きに放浪してもいい、だけど最後にここに戻ってきなさい。
人生に置ける、目的、目標、そして束縛。

 まぁ、だからそれがどうした、と言われれば
別にどうもしない。としか答えられないのだが。
僕が言ったにしろ、鰐待や鐚走が言ったにしろ、
こういった一見深そうで、全く意味の無い事を口にしてるときは
大抵がその場の思いつきでそれっぽく適当に並べてるだけ。
僕が偶然とはいえこんなことを思い出したのは僥倖とすらいえる。

「これは、美味いな。美味い」
「そうですか。気に入ってもらえたようでなによりです」
「私も紅茶は好きでな。うん、お前の好感度もあがったぞ。あがった」
「ですか」

 好感度って。
初対面の人間のルートに入るつもりは僕にはないのだけどなぁ。
なんかエンディングもハッピーっぽくないし、
というか早く本題に入って欲しい。

「本題。本題ね」
「えぇ、用事があるのでしたらくつろぐ前にそっちを消化してください」

 自分にしかいつも紅茶を振舞う相手もいないので、
この場にあるカップは一つきり。
そしてそれを彼女が使ってるために僕は飲めない。
理不尽。不条理。

「私はお前に折り入って頼みがあるんだ」
「頼み、ですか?」
「あぁ、付き合って欲しいんだ。付き合って欲しい」

 この場合、恋愛要素はほぼ除外。
ならば行動を共にするということになるが、
しかし買い物に連いていくのとは違う。
面倒ごとの予感以外のなにものもしない。

「私は茶屋抹茶、お前を知っている」
「そうでしょうね。如何なる方法で知ったのか、
 わざわざこの家にやってきたわけですからね」

「それだ。それなんだよ」

 ぐいと残っていた紅茶を一口で飲み干して、
桃透絶ナは少し興奮した様子で身を乗り出す。
その際力強く置かれたカップが僕は偉く心配なのだが、
多分空気が読めない奴と思われそうなので黙る。

「私は知っている。知ってるんだ。
 お前の事だけじゃない、鐚走監獄のことも鰐待列車のことも」

 知っている。
その言葉はどこまで通じるのか。
知っている、どの辺りまで知っているのか。
僕の居場所がわかったのだから他の逸脱した
住居を構える二名の家は即バレとしても、
もしかしたら僕が知りえなかった彼らの背景を知れるかもしれない。

「あなたは何者ですか?」
「私はマザコンだ」
「…は?」

 いきなりそんな母親が好きであることを告白されても困る。
へーそうなんですか、それはそれは今の反抗的な若者が
氾濫する中で素晴らしく純粋な心をお持ちのようですね。
僕ももし母が生きていたそうなってたかもしれませんよ。
なんて言えばいいんですかね?

「ん、あぁ、間違えた。そうじゃない。そうじゃなかった」


「私はこの日本国内特殊自治領域のマザーコンピューターをしている」

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