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エリカ「レッドさん。その、一緒にポケモンバトルを……」


 9/2微妙に加筆修正

139 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日: 2008/09/01(月) 16:54:41.64 ID:Ye7TT8S20

「大丈夫?」

 声をかけられてはっとする、
それに合わせて生け花に向けていた鋏が指を掠める。

「っつ……」

 一瞬の軽い痛み、のち紅い血がぷくーとふくらみ
そしてとろりと流れ落ちる。紅は、そして赤は彼の色、名前
流れ行く血を呆け眺める私、ぽたりと緑の葉にたれる。

「なにやってんのよ、馬鹿ね」
「すみません」

 鋏を置いて指を舐める、そうすることが禊のように。

「ナツメさん」
「……なに?」

 口に広がる鈍い味、におい、
それらを感じながら私はバックから絆創膏を出してくれたナツメさんに問う。
「レッドさん、どうしてしまったんでしょうか……」
「……さぁ、ね」

 ナツメさんは気まずそうに答える。
四天王を倒し、チャンピオンの座を手にすると同時に
姿を誰の前からも消し去ってしまった彼。

「あまり、考えすぎないようにねエリカ」
「……はい」

 スッと音もなく近づいてきて、私の指に絆創膏を巻く。

「ありがとうございます」
「気になるのはわかるけど……、気をつけなさいよ」
「……」

 ナツメさんの語気に勢いは無い、
彼女のエスパー能力それをしても彼の事は欠片もわからなかった。
それは死を意味してるのか、ただただ彼女の力が及ばないところに彼がいるのか、
私にはとんとわかりやしないけど…。
無意識に強く手を握る。爪の先が白くなるまで、強く、そして気付く。
怪我をした指、そこに巻かれた絆創膏はまるで……、と。

「……そういえば」

 自分の指を見つめていた私に、
心を読んだのかどうか呆れた口調でナツメさんは
私に今思い出したとばかりに話し始める。

「ジムの方休んでるらしいじゃない」
「えぇ……、少し、いまの私には難しくて」

 生け花を見ればわかる。自分の心が、
迷ってる、悩んでる、辛いと、悲しいと
そう言っているのがありありと、見える。
多分こんな調子でジムを開いてもバッチをばら撒くだけに終わる。
どうせあと半年以上も次のリーグまではあるのだからと、一種高をくくっている私。

「……カスミもそうみたいなのよ」
「へ?」
「カスミもね、最近ジムを休んでるらしいわ」

 意外だった。
彼女は八つのジムのリーダーの中でも一番勝気で陽気で元気だった。
その彼女がと思う反面、
しかし彼女がそうなのだから、と
自分も仕方ないのではないか、と
そんな情けない言い訳が即刻顔をだしてしまう。

「……」

 ナツメさんの視線が強くなる。
心を読めるのはどちら側にも不利益が多い。

「はぁ……」

 嘆息をしつつナツメさんは足を崩す。
一応二人しかいないとはいえ普段生け花教室として使ってる部屋、
その畳の上、彼女はその辺を気にする性質なのか、
いままで正座をしていたのだった。

「おかげでマサラの新人が困ってるわよ、ニビの次にクチバに回らざるを得ないからね」

 そしてマチスさんの次は本来のところ私であるけど、しかし休業中
セキチクのキョウさんか、ヤマブキのナツメさんのところに行かざるを得ないのだろう。
そうなると流れが鬼になってしまう、
多分新人さん達はひたすら歩いて頑張ってるのでしょう。
……他人事では、ないのですけれど。

 そりゃあリーグに間に合うように始めるつもりではある。
でも早急に、数をそろえたい人間には……、この状況はよくない。

「カツラだってグレン島が噴火とか言ってる中でもジムはやってるわよ」
「……」

 それは責める様な言葉、物言い。
しかしそれは事実で、実際彼女も責めてるのだろう、
これは、個人の問題でなく、公的な責任を持つたった八人の仕事。

「……はぁ」

 ため息が、とまらない。

――

「ヒトカゲ戦闘不能! よってジムリーダーマチスの勝ち」

 審判の宣誓を受けてライチュウをしまう
一言、ボールに向けて労いを入れてからヒトカゲを抱く対戦者を見やる

「か、かげ大丈夫か!?」

 どうみても経験の少ない小僧、駆け出し、ひよっこ
他の地方から腕試しにきたトレーナーを除けば、基本どこの町在住の人間だろうと
ニビから初め、そしてトキワで終わる。その順路を崩すことは無い

「ヘイユー、もっと経験積んで鍛えなおしな」
「は、はいっ!」

 ハナダのジムの休止、タマムシも同じく休業
その結果、三番目の位置にあったこの俺のクチバジムは、ハナダとの距離関係も有り
ほとんど新人と変わらないぼうやが挑んでくることが多くなった

 マサラ周辺の住民が最初にもらう特有のポケモンを持ってる所から
どれくらいの道中を歩んできたかはわかる
いままではその間にあったハナダや最初の、
そこでヒトカゲなら大きなレベルアップを強いられる

 その為リザード、時にはリザードンに進化してることも稀ではなかった
…少なくともヒトカゲで挑まれるのは、初めてだった

「たく、なんで俺が対戦者に発破をかけてやらなくちゃイケナイんだ……」

 本来三番目というこの位置は、最初の挫折や苦労を教える場でもある。
ジムリーダーとは、能力あるもの、前途有望なものを選び支え進ませる者でもある、
だから勝敗に関わらずリーダー当人の意思によってはバッチを与えることもできる。

 しかし、俺は、俺だけは過去に一度もそういったことをしたことはない。
ニビとハナダ、二つのジムを旅始めの新人が制覇した、
それは自信を超えた過信になり兼ねない。

 だから俺はそうして中途なトレーナーをコテンパンにする役割だった。
……だがなにやら最近はその辺の各地域での役割がぐらついている。

 元々所有しているポケモンによってその難易度も変わってくるジム戦。
最初から曖昧ではあった、がしかしそれでも不文律としてあったそれが崩れてる。

「……ライチュウ、どう思う? アイツが居なくなってからズイブンと空気がかわってる」

 ボールに入ってる相棒に語りかけると同時に、俺は新たな挑戦者の声を聞いた。

――

「はぁ参ったわね」

 私の声に反応して、ジュゴンがきゅるると泣き声をあげる、
私は横に寝そべったジュゴンの艶やかな毛皮を撫ぜる

「何がだ」

 私達が座ってる川縁、その上流にある滝に打たれてるシバが
座禅を組んだまま私の独り言に返事する。
滝にうたれてる癖によく聞こえるものだわね。

「大方あの小僧の事だろうよ」
「ビンゴよキクコさん」
「……どこに行ったのかあやつは」

 私達四天王のチャンピオン。
その男の不在。ワタルもジョウトに探しにわたったとか言うし、
四天王も解体再編成の可能性がでてきてる。

「シバはどうすんの?」
「む?」

 こちらまで飛んでくる水飛沫にジュゴンが目を細める。
私はその体に寄りかかりながら、
シバに今度は返事を期待して話しかける。

「四天王続けるの?」
「さぁて……、だがまぁ……やめろといわれない限り
 俺はここに居るんだろうな。修行には最高の場ではある」
「あそ」

 暑苦しい男なんだから、私は眼鏡についた水滴をぬぐいながら
続いてキクコばあさんに声をかける。
少し離れた木陰にゲンガーと並んでいると、
普通に幽霊に見えるので正直止めて欲しいのよね。

「わたしゃやめるよ、戦う理由もなくなったし。年には勝てん」
「まだ行けるんじゃ?」
「ふん、まだ行ける、まだいけると進んだ結果がこの体たらく。もう隠居することにするよ」

 二ッと意地悪そうに笑うキクコばあさん、本当に幽霊みたいだわ。

「で? あんたはどうするんだい?」
「私は――


―――

「姉ちゃん、俺ジムリーダー目指すよ」

 ポッポの鳴き声が窓から聞こえてくる。
子供のはしゃぐ声が聞こえる、
今日もまたじいちゃんに始めてのポケモンをもらって新しく旅立つ奴がいる。

「どういうことグリーン」
「俺は、チャンピオンになった」

 ほんの、一時の間。
俺はあいつのかませ犬だったと言うような、一瞬の天下を、
だがそれでも俺は確実に味わうことができた。
殿堂入りを果たした。

「いま現チャンピオンは行方不明、四天王は解体して再編成するらしい」
「らしいわね、おじいちゃんも色々言ってた」

 リーグは開催されるまでまだあるが、
あいつが戻ってくるかどうかはわからない。
俺は代わりになることは、できない。
器じゃない、だからといってあいつ以外の誰かが
チャンピオンの座にいるのは気に食わない。

「だから俺は、ジムリーダーになって。
 四天王に挑む前に、俺が全て倒して、あいつの場所を残す」
「……がんばりなさいよグリーン」
「ありがとう、ちょうど最後のジム。
 トキワが空いてるからな、ハナダとタマムシの両ジムの一時閉鎖と相まって
 ジムリーダーが早急に必要なんだ、でも最強のジムリーダーになる人間はそういない」

 だから……俺が、なる。

―――

「……」

 パチパチと、火が薪に含まれた空気や水分を膨張させ、
それが弾け、幾度も小さな音を立てる。

「……」

 音を立ててマグカップに入れた即席スープを啜る。
僕がここに来て半年、連絡は誰にも入れてない。
母さんはどう思ってるだろうか? 心配を、かけてるのだろうか。

「……」

 僕はでも帰るわけにはいかないんだ、まだ。

――

「エリカ」
「なにかしら?」

 鏡越しに答えるものの返事は無い。
私はかんざしを通し終えると振り向いてもう一度問いかける。

「どうしたのナツメ」
「あぁ~、なんだ、その……」

 答えに詰まるナツメ、……らしくないと思う。
頭にクエスチョンマークが三つほど浮かぶ。

「や……」
「カスミ……?」

 唐突にナツメの沈黙の意味を悟る。
あぁ、どうしようと素直に困惑する。

「いきなりごめんねエリカ」
「うぅん、べつに構わないわ」

 なんの用? なんて聞けなかった。
そんなの明白だから。
……べつに私はナツメのような力なんて無いのに、
いまだけは、カスミの心中が嫌に鮮明に理解できた。

「レッドを探しに行く」

 ナツメはなにも言わない、思うに彼女がテレポートで連れてきたのだろうし、
道中でナツメにはとっくにわかっていたのだろう。
私がすぐにわかったのだ、ナツメに隠し事ができるとは思えない
ただでさえカスミはひたすらにストレートな性格なのに。

「もうダメ、たった半年がこんなに長いって思わなかった」

 歯を音が立つほどに噛み締めうつむくカスミ。
彼女の実直な性格は、こういった方向にも現れる。

 彼女のそのムードメイカーな立場、愉快な性格、
それはなんでも楽しいという訳じゃなく、
単に楽しめる幅が人より少し広いだけ。
彼女は……、むしろ逆行には弱い、ちょっとしたことで折れてしまいそうに。
――だから。

「ダメよカスミ」
「え……」

 彼女の気持ちは知っている、そして彼女も私の気持ちも知っている。
ナツメは……、目をそらされてしまったわね。
とにかく、お互いの気持ちを知ってるからこそ
私はカスミを押しとどめる、それは自分への言葉。

「な……ん、で?」

 私が拒絶すると思ってなかったのだろう、
カスミは驚いて困ったように眉を潜める。


「私達はジムリーダーです、確かにいまはお互い休止中ですけれど」

 休止なら、まだいい。私達が遠くへ個人的、私的理由で行動すれば
ジムは無くなる、存在を失う。そしてトレーナーは、目的を失う。

「私は明日よりジム戦を再開したいと思ってます」
「なっ」

 いま、決めた。
私は戦わなくてはならない。
もし、もしもジムを空けて彼を探しに行って、
それで彼を見つけても彼はきっと私に微笑んでくれないだろう。
なんでそんなことをしたのかと叱咤するであろうから。

「カスミ、私達はジムリーダーです。いちポケモントレーナーです」
「……」
「彼も、チャンピオンである前に、一人のトレーナーです」
「……そうね」

 言いたいことは、伝わったのだろうか?
半分伝わればいい、まったく伝わって無くても……、いいとしよう。
少なくとも、彼女はもう彼を追うとは言わないだろう。

「トレーナーとして、彼ともう一度バトルするために。
 私は自己鍛錬をジム戦を怠りません」
「うん、私も……これ以上トレーナーを困らせないようにしないとね」

 ……よかったそう思えた。
―あぁ、彼はいまどこでなにをしてるのでしょうか?

―――

「ここにも居ないか……」

 空中から散策し続けてどれだけ経ったか、
俺は休憩をかねてハクリューを人気のないところに降ろす。

「ありがとうハクリュー」

 労いボールにハクリューをしまう。
赤い光がハクリューを包み音もなくボールに吸い込まれる、
毎度ながらこのシステムは興味深い。

「……絶対にジョウトに居るはずなんだ」

 カントーに最も近い隣、ポケモンリーグを兼用し
この地方の人間とは幾度も戦ったことがある。
レッドが生存していて、修行を目的に旅をしているなら、まずここに居るはずだ。
あいつの実力とポケモン達ならこっちのジムも制覇できるはずだ。

 ならば多少なりとも噂になってるのではと思ったのだが――。

「……くそっ」
「あの、……どうかしたんですか?」

 思ったより荒げた声が大きかったらしく、この町の住民だろうか?
幼い男の子がおずおずと話しかけてきた。

「君は?」
「ゴールドって言います」
「そうか」

 ゴールドと名乗った少年、年齢は如何程だろうか?
ベルトを持ってないところを見るとまだ十を超えてはいないようだ。

「君はポケモンとかは?」
「俺、再来年にならないとポケモン持たせてもらえないんです」

 つまり、まだ八つか……。
しかしどこかにレッドの面影がちらつく。
なぜか、近い将来俺はこの少年と戦いそして負けるのが想像できた。

「……君なら、もしかしたら会えるかもな」
「へ? 誰に?」
「最強のトレーナーに、かな」

 俺はそれだけ言ってこのミシロタウンから、
しまったばかりのハクリューを呼び出して飛び立った。
少年は、それをただぼうっと見ていた。

「トレーナーになれ! きっと君は強くなる!」

―――

「そんなこと言われてもあかんていっとんねん!」

 バンと机に手をたたきつけた勢いで書類が宙に舞う。
けれど私はそんなことはお構いなしと、全世界のネットワーク管理者である
ポケモン預かりシステムを創作したマサキにつめよる。

「レッドのボックスの履歴を見せろってだけでしょ!?」
「それがあかんねん! バレたらわいがどうなるとおもてんねん!」

 ハナダ岬、そこに住居を構えるマサキに喧嘩を売りに言ったのは
エリカのところから帰って、私のジムの休止中の札をひっくり返してすぐだった。

「べつに減るもんじゃないでしょ!?」
「あかんて! 管理法とかプライバシーとかに抵触するねん!
 バレたらワイの人生めちゃくちゃなるわ!」
「知るか!」


 お互いの間で視線がぶつかる。
床についた紙類達がカサカサと乾いた音を立てる。

「……頼むわマサキ」
「これはプログラマーの意地や、わいもレッドのことは気になる。
 だからこそ私的理由で使うわけにはいかん。公私混合はせん」
「……」

 いつも飄々としていて、調子の軽いマサキが、
 私の眼を真っ向から見返して言う。
”私的理由で”それはエリカにも言われたこと、
ならば私は仕事だけをしてレッドを忘れろと言うのか。
……そんなことできない

「それを、曲げてお願いするわ……」

 私は躊躇無く、頭を下げる。
それでも自分にできる、レッドのことを少しでも知る為の最善、
私にできるのは、こんなことしかないから。
マサキが絶句しているのが、顔を見ていないのによくわかる。

「えっ?」

 頭を下げて、距離の縮まった書類の散らばる床。
その散らばった紙の一つに、
自分が求めていた情報の全てが記されていた。

「…あちゃ」
「おい、マサキ」

 自然と声にドスがかかってしまった。
自分の喉からでたにも関わらず自分で引く声色だ。
なんだこれ? 本当に私の声か?

「…なんですかいな」
「これ、どういうこと?」

 下げた頭がいまさら惜しくなりながら
一枚の紙を拾い上げる。

「レッドのボックス使用状況、もっとも最近使われた日、
 あずけられたポケモン引き出されたポケモン」

 紙に書かれてる事項を読み上げていく
内容が進むたびに眉が無意識に上がる。

「あんた、自分で調べてたの……?」
「……まぁあれや、泥かぶるんはワイだけでええやないか、な」
「サイテー」
「へ?」
「ずるいわよ、そんなの」

 紙を丸めてマサキの頭をはったたく。
ばれてしまっては仕方ないとマサキは頭を軽くかきながら
紙に書かれた情報からの自分の見解を述べ始める。

「レッドの履歴を見る限り引き出しはない、
 でも不定期にポケモンがあずけられとった」
 
 それは彼が生きている証明ということになる。
そして引き出されては居ないということは、
ずっと同じメンバーを使用しているということ。

「あずけられたポケモンの種類から地域の限定はできないの?」
「……」

 捕まえて手持ちの数を超えた分は直接センターに言ってあずけるか
ポケモン図鑑を持っている人間ならそれを使用して間接転送が可能。
レッドは考えるまでもなく後者、
ならば捕まえた場所から動かずに送られているわけで……
それを限定できれば、彼を探すのは格段に楽になる。

「いや、旅をしてあちこちを練り歩いてるんやろな……。
 捕まえたポケモンの分布地はそれぞれかなりちゃうし、
 正味な話、特定は無理や……」
「それでも!」
「……ジョウト」
「へ?」

 それって、隣の地方の、あのジョウトってこと?
滝を超えて海をわたって行ける隣の地方、
現在ヤマブキにジョウトまでつながるリニアレールが
急ピッチで製作されてるけど……。

「こっちにはいーひんポケモンがいくつか確認されとる、
 それはどれもジョウト地方特有のポケモンや」
「……あっちにいるの?」
「わからんわ。最近は預けてる数自体もさっぱり減っとるしな……」

 それでも、レッドがジョウトにいる可能性があるのなら、
生きてる証明があるのなら。

「私はそれを理由に戦うわレッド」

―――

「お父様、タマムシ、ハナダ両ジムが再開したそうです」

 自室、書物に目を通していると愛娘より連絡が入る。
姿は見えぬ、が気配ははっきりとある。
まだまだ未熟と笑いながらも拙者はそれに答える。

「そうか、ならばこのセキチクジムに挑戦してくるものも増えてくるだろう」

 過程にある二つのジムの欠落により、
逆に鍛えられず道中の野生のポケモンに
四苦八苦するトレーナーが増えている。
そのため特に距離が離れてるこの町に到着するトレーナーは非常に少ない。

「アンズ、お前もそろそろ次期のジムリーダーとして
 もう少し自己鍛錬に励め。いまのままでは話にならん」
「……はいお父様」

 書物を巻き懐にしまい、
ここしばらくバトルから離れていたポケモンたちを呼び出す。
ゴルバットやアーボック、拙者のポケモンは毒使い。

「あとはトキワのリーダーが決まれば……」

 いくら過程が出来ても最後の一つがまだである。
四天王にも引けをとらない強さを求められる、
最後にして最強のトキワのジムに誰が就任するか、
それは大きな問題として残る。

「その話ですがお父様」
「む?」
「オーキド博士の孫がトキワジムのリーダーに正式に着任するそうです」
「……それは真かアンズ」

 あのオーキドの孫。
拙者も一度戦い、そして見事に敗れたあの少年。
一時は四天王を倒しチャンピオンの座に上ったという彼なら、
……確かに不足は無いのだろう。

「しかしそうなるとやはり新四天王の話が問題になる――」

 そう矢継ぎ早に次から次へと問題があがることに辟易する。
この世にことも無しなど、そんなこといつまで待ってもないのだ。

「む、……お父様、客人です」
「ん? そうか、アンズ通してくれ」
「はい」

 一瞬気配が消える、そして古い戸が軋む音。
客人ということは挑戦者ではないはず、
一体どこのどちらさんの訪問かといぶかしみながらも
茶の一つでも用意しようと思ったとき。

「……お久しぶりですねキョウ殿」

 残念なことにアンズの案内が的確だったのか
意外なほど早くこの部屋の扉が開いた。
そこに居たのはポケモン公式リーグ委員会の面々。

「……何用かな?」
「四天王再編成の話は聞いてると思うが」

 前振りもなしに唐突に本題に入られる。
仕方なしに拙者は再び腰を落とし前の座布団に座るように促す。

「それで?」
「あなたを四天王の一人として迎え入れようということですよ」


―――

 リザードンに頼んだ炎を松明に移す。
それをこの最深部のあちこちに作った穴においていく。

「……」

 パチパチと音を立てて炎が辺りを照らす、
それをムウマが興味深げにふわふわと漂って見ている。
僕は彼女らに軽く手を振って挨拶をして、ごつごつとした岩に腰掛ける。
あと二年で、この石の上にも三年になる。

 ふと、遠くからバンギラスの声が薄く響き、
それに反響して小石が小さく震える。
この一年で僕のリュックはボロボロになり
ずいぶんと年季の入った感じになってしまった。

 僕は、あれから少しでも強くなれただろうか? 少しでも前に進めただろうか?

「ピカ?」
「……大丈夫」

 太陽も月も見えないこの山奥で、僕はただ待っていた。

―――

「ねぇお母さん」

 僕は大好きなお母さんのビーフシチューを食べながら お母さんに話しかける。
お母さんは、静かに微笑んで僕の話を聞いてくれる。

「なに、ゴールド」
「来年になったら10歳になるでしょ?」
「そうね」
「どのポケモンにしようかな……」
「ふふっ、たくさん考えて選ぶのよ?」
「うん」

 ヒノアラシ、チコリータ、ワニノコ。
どれも一回ウツギ博士に見せてもらった事があるけど、
みんな可愛くて格好よかった。
……どれにしようか、頭の中で悩みながら、
ふと去年言われた言葉を思い出す。

「会えるかな……」
「誰に?」
「最強のトレーナーさんに」

―――

「この島も、変わってしまったな」

 グレン島と呼ばれている島。
それ自体はまだ形はある。
だがしかし、火山の噴火によって大半を溶岩に埋められてしまい
見るも無残な姿になった自分達の島。

 自身は少しはなれ、影響でできた小島にジムを構えている。
そこから見えるグレン島は、
どうにも哀愁と郷愁と半々に思わせる。

 現在あそこにあるのはポケモンセンターだけ、
復旧作業も滞り、離れ小島とはいえ被害者も相当数でた。
自分のジムも、そのトレーナーもまとめて飲み込まれた、
いまのジムは、洞窟に少し手を加えただけの簡素なもの。

「カツラさん?」
「ん、大丈夫だ。すまない」

 リーグの公式判定員が出入り口にスーツ姿で立っている
サングラス越しの目は私を気遣うように見える。

「……まだ大丈夫だ」

 火山岩、火山灰、溶岩、
それらが固まってできたこの洞窟内は、
今だ冷め切れぬ熱が篭り、非常に暑い。
しかし炎タイプのジムリーダーとして、
私はまだ年やなにやらを言い訳に引退するわけには行かない。

 炎、その色は黄色、オレンジ、青……。そして赤。

「頼もう!」
「おっ、未来のチャンピオン! ここのリーダーカツラは――」

―――

 ラフレシアが舞う、
その足で地を蹴り私をも超える高さに舞い上がる。
そしてその下、トレーナーの私に当たらないように配慮されたとはいえ
私のギリギリ横を、挑戦者のポケモンが吐いた火炎放射がかすめる。
相性は虫ポケモンに続いて最悪、
しかし相性、それは力量と戦術と戦略とポケモンとトレーナーの繋がりで
安易に、容易に、簡単に覆すことができるもの。

「ラフレシア、はなびらの舞い」

 強力な攻撃の後の隙を狙い、命令を下す。
それを受けてラフレシアは周囲に桃色の花びらをいくつも広がらせ、
まるで幻想のような現象を起こす。
花びらの一つ一つが意思を持って宙に漂い、
一定の数が生まれるたびに敵に向かう。

「ブースター!?」

 相手の声、それは焦り。
草タイプのジムであることを考慮して
相性で勝つポケモンをもってきたにも関わらず
圧倒されているという事実が、さらに追撃を許す。
そして決着花びらの合間に仕込んだはっぱカッターが
致命的なダメージをブースターに与える。

「ブースター戦闘不能、よってこのバトルジムリーダーエリカの勝ち」
「ありがとうラフレシア」

 ボール越しに声をかけて労う、
これはポケモントレーナーとして共通の常識。
開閉スイッチを押して小さくなったボールを着物の袖に仕舞い
一度だけ小さくため息をつく、
炎ポケモンの存在でジム内に熱気が籠もって来ている。

「ミナ、窓を開けて少し換気をしましょうか」
「はいエリカ様」

 上部にある窓を開けて空気を入れ替える、
冷たい空気は重く、暖かい空気は軽いという基本から、
窓の外からひんやりとした空気が降りてきて、
代わりに熱せられた空気は流れ去る。

「ありがとうミナ」
「いえ、礼には及びません」

 振り返り、ふと気付く。
私の横をかすめた火炎放射が後方の植物を焦がしていることに。

「……」

 バトルのたびにフィールドがボロボロになってしまうのは毎度の事、
しかしそれでも……、やっぱり心が痛むのは止められない。

「キレイハナ、お願いね」

 黒く、その葉を焦がした可哀想な花達。
その前でキレイハナは手をかざしてひた踊る、
きらきらと、花粉が広がり天窓から入る光に
紅く青く黄色く緑に多種多様に光を反射する。

 癒しの踊り。
キレイハナの花粉が、痛んだ花達に力を与え
みるみるうちに新たに芽が息吹き蕾が現れる。

「……もう大丈夫ね」
「あの……」

 キレイハナを戻そうとしたとき声をかけられる。

「大事な花を焼いてしまって、すみませんでした」
「……」

 バトル最中にあった不慮の事故
それなのに謝る少年に、私は苦笑して答えた。

「ありがとう」

―――

「兄さん!? な、なぜこちらに?」
「イブキか、久方ぶりだな」

 湖で瞑想をしていた私。
顔にかかる強烈な風に目を開けると
空中にカイリューが威風堂々と浮かんでいた。
そしてそこに跨るのは一族の誇りであったワタル兄さん。

「こちらには顔を出さないと――
「イブキ、レッドという名前の男を聞いたことは無いか」

 ぐっ、と言葉が詰まる。
それは自分の台詞に、存在に、興味を示していないということを
言い終わる前に被せられた言葉から理解したからだけではない。
兄さんの口からでた名前に覚えがあるから、だ。
私の憧れであった目の前の従兄を負かし、
最強のトレーナの誉れを持つ男。

「知ってはいます」
「こちらに来て居るはずなんだ」

 また、言葉が詰まる。
なぜ過去の自分の言を曲げここに来たか、
それはつまり私がジョウトの最後のジムリーダーだからだ。

「そうか、ということはジムが目的ではないか…」

 私の所にその男がきてないことでそう判断する兄さん、
途中で詰まったとか、負けたとかそういう考えは頭にはないのだろう。
わかってる、私を含めて一介のジムリーダーが勝てる相手ではないのだろう。
今のチャンピオン、彼という人物は。

 映像で見た、全国で話題になったあの少年の戦い。
進化をさせてない愛玩のように女子供に人気の電気ねずみポケモンで
いま目の前に居るカイリューを一撃でねじ伏せたあいつ。

 ……勝てるはずが無い、
勝つ要素が無い。勝てる見込みが無い。勝てない、勝てない。
泣きたいほどに、それが悔しい。

「邪魔をしたな。一応話を聞いたりしたら教えてくれ」
「あっ、兄さん!」

 私の制止を聞かずに飛び立つカイリュー、
残ったのは苛立つ心と砂塵のみだった。

―――

 岩が座った僕に向かって飛んでくる。
僕は動かない、ただ唇を一言分動かすだけ。

 それで岩は粉々になり、
ここへの入り口と僕の居る場所を繋ぐ小さな自然の橋
その横の穴から砕けた破片が落ちていく。
砕いたのは電撃、ピカチュウの鍛え上げた雷にも匹敵する、雷をも超越する電力。


 ごがぁぁぁ!


 バンギラスの叫び声、そして口に溜まるオレンジの光、破壊光線。
流石にこんな場所でそんなものを使われては困る。
皆が生き埋めになってしまう。
その電気の強力さよりも素早さを特徴とするピカチュウが
先手を取ってバンギラスを地に伏せる、
アイアンテール、こっちに来て覚えた新しい技。

「……悪いねバンギラス、でもいくら力を示そうと、
 君を仲間にすることはできない。場所がばれちゃうからね」

 幾度も僕に戦いを挑み、やってくるバンギラス。
でも、僕は気絶したその子を眺め。
リザードンに山に戻してくるように頼んだ。

「……」

 松明の一つが明滅を繰り返しやがて光を消す。
続いて二本目三本目とこの最深部を照らしていた唯一の光源が次々に消えていく。

「もうそろそろ夜の10時だってピカ」
「チュウ?」
「寝ようか」
「ピカ!」

 松明一本が大体五時間は持つ。
これもヤマブキのシルフカンパニーが作った冒険者用の道具らしいけれど、
まぁ、時間を計るにも役に立ってるので使ってる、一本500円也。

 そんな会話をしてるうちにリザードンが戻ってくる。
すっかり真闇に切られた空間に、一瞬面食らったような表情を見せ、
自分の尻尾の、僕が普段行ってる焚き火以上のの炎をかざしてこちらに飛んでくる。

「……ありがとうリザードン」

 そろそろ、買出しに行かなくちゃいけないな。
……この服装で出歩くと目立つから嫌なんだけどなぁ。

―――

「ねぇブラッキー、この世はいとも儚く脆く拙いとは思わない?」

 ビルの屋上で鋭く尖った月の下、
フェンスを越えた淵から足を放ってまどろむ。

「私達がここから飛び降りてもなにも変わらないと思うのよ、どう?」

 答えは無い、私のブラッキーはやけに無口を気取ってる。
むぅ、と私は頬を膨らまし仕方なしに
フェンスの上に止まってるもう一匹に声をかける。

「ねぇヤミカラス、あなたはいつも高く飛んで。
 この高さで、この目線で世界を見下ろして、
 世界は小さいと思わない? 矮小だと思わない?」

 フェンスの上から困ったような目で見下ろされた、
答えに窮してる様でなんと答えたらいいかと悩んでる。
それをみて少し気分よくなりながら、「冗談よ」と小さく前言を撤回した。
呆れた様にブラッキーが、私の足をその柔らかく毛むくじゃらの前足でぺしとたたく。

「ふふっ、もっと楽しいことは無いかしらね?」

 今度は独り言、誰に言うでもない、
答えを求めない、宙に飛ばした言葉。

「あるさ」

 しかしそれに誰かが答えてくれちゃった。

「あんた誰だ?」

 即刻臨戦態勢に入る私とブラッキー、ヤミカラス。
闇ポケモンを好んで使う私、
その私の目には月明かりで十分、はっきりと相手の姿が見えた。
声と体格から男であることは判別できる。
ヤミカラスがフェンスから飛び男の頭上を威嚇するようにまわり
ブラッキーと私は跳躍してフェンスを飛び越え男と対峙する。

「お前の経歴は多少知っているカリン」
「……ブラッキー、待て」

 私の名を男が言ったと同時に
シャドーボールの予備動作に入るブラッキー。
それを先んじて読んでいた私はすぐに止めさせる。

「あんた何者だ?」

 今一度問い直す、語気を強め、
残ったメンバーを取り出せるようにボールに手を掛ける。

「カリン、お前のそのポケモントレーナーとしての実力試させてもらう」

 らしくない、時代も場所も季節も間違えた漆黒のマントを翻した男に
私は戦いを唐突に挑まれることになった。
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Comment

No title

凄く意味深な作品で物語に吸い込まれた。続きがどえらい気になる。


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