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没作品02 実際にはUSBも没だから03でござるの巻

最終更新7/10
―――

 私はパタンと何も無い部屋に音を立てて本を閉じ、
それを私室にいまある唯一の家具である本棚に戻した。
なんでもかんでもアナログでアナクロなものを廃し
ラジカルにデジタル化を進めてきた世情。
しかしながらどんなに発展しようとも、
世界からこういった紙媒体、所謂書物の類が無くなることなどなかった。
私自身、身の回りのものが電子的、電磁的になっても尚
この本と呼ばれるもの、それを愛し続けている。
いまだに重要な内容の報告や依頼はデータでなく
書類として目を通すし、世の中の情報もなにより新聞から取り入れる。

 そんな私が、よりにもよってこの地球上で最も電子的な国。
機械仕掛けの国にこうしてわざわざ住民票を置く羽目になったのは、
自分の意思ではなく、単にお仕事の問題であった。
 胸ポケットに入ってる一枚のカード。
もはや重さやポケットに入れてる事による感覚の違いなど皆無の、
その一ミリを切った薄すぎるカードがこの国で生きていくための全てだ。
身分証明、キャッシュカード、家や車等の施錠、その他色、
この薄っぺらいカード一枚に全てがつめこまれている。

 まぁ衛星からの所在地確認とか、その手のお仕事に邪魔な機能は
あらかじめ切ってあるので私としてはまだいいのだけれど、
落としてもわからないこのカード、
なくしたら生きていけないようなこんなハイテクなんて、
正直むしろ枷にしかならないと思う。
先刻の紙の話じゃないが、金銭も手元にないと落ち着かないのだ私は。
見えないカードでの買い物は、感覚を狂わす。

「よいしょ……」

 椅子が、ぎぃと微かに音を立てる。
八畳の広い洋室、あるのは椅子と、そして壁際に置かれた二つの本棚。
広すぎると思うけど、しかしここではこれが平均サイズらしい。
私からしてみれば一人暮らしのアパートなんて木造の、
結構年代がたってそうな感じの古びたイメージしかないのだが。
この国に古びたものも、木造のものも存在しない。
全ての建造物にはカードキーが付き、扉は自動ドアで、
そして中には何も無い。

「……」

 再度取り出したるカード。
それを壁に向け、くいと振れば、一瞬で壁の中心がテレビになる。
住居にそもそも家具など要らない、
家そのものが家具を備えているからだ。
こんなの、愛着もなにもない。
同じくその隣の壁にカードを向け、境目がはっきりした場所を開き、
炭酸飲物を、本来そこに収まってるべきでないものと一緒に取り出し、煽る。

 いくら生活形態がハイテク化しようと、しかして人間事態は変わらない。
むしろ、機械が発達するほど、より愚鈍に、より愚昧に、より愚図に、より愚劣に、
醜く、醜悪、汚く、汚濁、おぞましくなっていく。
故に、私のような存在もまた、本のように絶えることなく、
求めるものが居続ける。

 私は、やはり高性能化し、逆におもちゃのようにちゃっちく、
情けないまでに軽くなってしまったそれを掲げる。
セラミック媒体で作られ、充電式のバッテリーで弾を打ち出す、
所謂拳銃という人を殺すための道具を。

―――

 空は青い。
これでもかというほどに、空々しいまでに青い。
夜明けは淡く緑がかった色合いになるし、
夕刻は紅く地を染める朱色の空となり、
日が落ちれば紫と紺が幾重にも重なる色となる。
美しい空模様。

 この国の、発展レベルは行き着いている。
工業が栄えれば空気が水が土が汚れるのは
もはや常套であるはずだというのに、
さらに一歩、加えて二歩、進んだ科学は、
むしろ地球上を無菌室にしようかと言うほどに清廉だった。
その証拠、というのか。この国に、匂いはない。
まるで標高の高すぎる山のように、無臭なのだ。
汚濁も汚染もされていない空気、
純水と同じく、完全なる空気というのが
これほどまでに不味いとは私は思っても見なかった。
空気中に何も無い分、肺を通して自分の何かがでていきそうな感覚。
……はやく自国に帰りたい。そう心底思う。
ここに、慣れないうちに。

 私は入国管理関所の前を通過し、ショッピングモールに向かう。
一月と居ない国だが、だからこそ少しでも快適に暮らす為に
街並みを覚えるついでに買い物。
いくら生活に不便がないといっても、
一見なにも無い部屋、無機質で生活感の無い
周りと同じただの空間というのは耐えられない。
そんなの、牢獄のようじゃないか。

 独白。
つらつらと徒然に任せ足を運ぶ。
商店街、に程近い所為か住人の流れが激しく、
多くの人間があちらへこちらへと歩みを進めている。
地球上で最も快適な国、発展しきった国、
しかし歩く人々は別段他の国の人間と違うようにはみえない。
快適だからといって、それは幸せではない。
不便だからといって、それは不幸ではない。
むしろ、どこか息苦しそうな佇まいをしてるようにすら見える。

 そして人並みにたまに混ざっている清掃用の機械。
駆動音などなく、無音で人々の足元を素早く動き
ゴミ一つ落ちてない道を、チリ一つ落ちてない道へと変えていく。
……酷く、嫌な予感がした。
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