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岩沢√

 夢を、見ていた気がする。

 長い、永い、夢を。

 そこでの俺には、やる事も、やりたい事もあって。

 色んな人と出会って、関わって。

 様々な、生きていた頃の自分が死ぬまでに味わったこと全てよりもよっぽど濃い時間を過ごして。

――生きていた頃?

 今までの人生でこんなに笑ったことはないくらい笑って。

――死ぬまで?

 感じたことの無い感情を沢山知って。

――俺は……。

 そして。

――そして?

 ……俺は、どうなったっけ?
「気が付いたみたいね」

 声が聞こえた。
聞きなれたような、初めて聞くような。声。

「ようこそ、死んだ世界へ」

 開いた目には、やっぱり見たことあるような少女が長い狙撃銃を持って
寝転ぶ俺を見下ろすようにして笑っていた。
活発そうな表情で、カチューシャをつけた同い年位の少女。
見たことある気がするのに、どこで見たのかわからない。

「意識はしっかりしてるかしら?」
「……あぁ」
「そ、よかった」

 差し伸べられた手を掴んで起き上がる。

「俺は、死んだのか……」

 背中や尻に付いた土を払いながら、
俺は先ほど言われた言葉を思い出してつぶやく。

 妙に、納得したような気分になった。
すごくしっくりくるというか、なんというか。
――まるで、迷子になったときに、そっと道を教えてくれた様な安心感。
自分の知ってる道に出たような、安堵感。
思い出そうとしても、自分が死んだ記憶なんて、ないのに。

「記憶が無い? 記憶喪失って事?」
「……多分な」
「そう、それは大変ね。……まぁ、しばらくこっちで過ごしてれば思い出すわよ」

 感じたことを言ったら、ぞんざいな様でとても慣れた反応をされた。

「そりゃあね、実際慣れてるもの。珍しいけど、皆無じゃないわ。
 死んだ時のショックで記憶が飛ぶって言うのは。……特にここじゃね」

 意味ありげに呟く彼女。

「どういう、意味なんだ? というか、ここには他にも人間が?」
「えぇ、居るわよ。……辺りを見渡してみて? ここ、どこだと思う?」

 言われて、周囲をぐるっと見渡す。
そして視界に入るのは、四階建ての校舎。
オーバル型に白線が引かれ、サッカーのゴールが置かれたグラウンド。
それらをグルッと囲む柵や塀、そして門。
どれもこれも、始めてみるはずなのに、なぜか見覚えがあって、とても懐かしい。

「……ちょっと、大丈夫?」
「え?」
「泣いてるわよ?」

 言われて、不意に目頭の熱さに気が付く。
頬を手の甲で擦ると、雨も降っていないのに濡れた跡。

「なんで……泣いてるんだ……?」

 訳がわからなかった。
……ただ、胸が締め付けられるようで、辛くて。
苦し紛れに気づけば着ていた制服の胸を強く握った。

「ここは……学校、だよな」

 こういった事態にも、やはり慣れているのだろうか。
少女はよくわからないままに涙する俺をただ黙って見ていて、
俺は手のひらで両の目を強く擦ると仕切りなおすように聞いた。

「その通りよ。生徒数が二千を超えるマンモス校」

 彼女は俺の意を汲んでくれたのか、
なにも言わずに答えてくれた。


「ここの生徒の四分の一はあなたと同じ、死んだ人間。昔、生きていた人間」
「じゃあ残りの生徒は?」
「それは……」

 と、言いかけて。
少女は突然俺の手を引いて近くにあった大きな花壇に身を隠し、
最初から担いでいた狙撃銃を構えた。

「な、なんだ?」

 先程までの雰囲気と打って変わって、
凛とした冷たい空気を纏った彼女に戸惑いながらも
「しゃがんで身を隠して」と言う彼女の指示に従う。

「見てみなさい」

 しばらくスコープを無言で覗いていた彼女は、
不意に指で銃口の先を指差しスコープから顔を外す。


 俺は言われたとおりにスコープを覗き込むと、
浅く刻まれた十字が重なるように拡大された一人の女の子が見えた。
白く、長い髪。小さな、体躯。朴訥とした表情。

「あの女の子がどうかしたのか?」

 しばらくスコープを覗いた後、聞いてみた。

「あれは天使よ」

 彼女は真面目そのものの表情でそういった。

「……は?」
「さっき残りの生徒はどうなのかって聞いたわね?」
「あ、あぁ……」


「私達元人間はこの学校の生徒。その四分の一程度、五百人程。
 いえ、それは少し誇張しすぎたかしらね。まぁそれ以下程度な訳。
 でも生徒はそれ以外にも居る。彼らはなんなのかって聞かれると、
 まぁ私もこの世界の管理人じゃないからキッチリ説明するのは難しいわ」

 彼女はそう前振りをしてから「だから私達SSSはその人間以外のここに居る生徒や
先生の事を便宜上NPCって呼んでるわ」と言った。

「……ノンプレイヤーキャラクター」
「あら、よくわかったわね。その通りよ」

 またスコープを覗き込んではその先に居た白い少女を
じっと監視している様子の彼女は感心したようにそういった。

「するとなにか? その銃の先にいる彼女やその他人間外の連中は敵で、
 だからお前はそんなとんでもない物で狙ってる、とでも?」
「いいえ違うわ。NPCは基本無害よ」
「じゃあなんであの女の子を狙ってるんだ?」
「言ったじゃない。彼女は天使だって。……それと、私は中村ゆり、みんなはゆりって呼んでるわ」


「じゃあゆり、改めて聞くがなんであの子を狙ってるんだ? 天使って……どういう意味だ?」
「私達は死んだ人間。そこはいい?」
「あぁ、一応な」
「で、それ以外にも生徒は居る」
「それがNPCって奴なんだろ?」
「そう呼んでるわ」

 疑問が多すぎてわからなくなってきた。
――いや、俺は知っている筈だ。この世界のからくりについて。

 一体なにから聞けばいいのかすらわからない。
――なにも聞くことなんてない。思い出せばいいだけだ。

「なにを?」
「え?」
「あ、……いや、なんでもない」

「……う~ん。じゃあ、一つずつ説明するわ」

 スコープを未だ覗き込んだまま、
ゆり、は丁寧に小さく言葉を続ける。

「まず、NPC。人間以外の生徒の総称。
 ゲームの端役と違って話すし触れるしパッと見は人間」
「……どうやって違いを見分けるんだ?」
「あなた、年は……、って記憶無いのよね。
 まぁいいわ、どの学年のどの教室でも良いからあとで入ってみなさい。
 そこがあなたの『過ごした』クラスになるから」
「……言ってる意味がわからない」
「そのまんまよ。そのクラスのNPC達はまるで最初からそのクラスに
 あなたが居たかのようにあなたに接するわ。試しに初日は昼頃登校してみなさい?
 初めて会うクラスメートがあなたの名前を呼んで『遅刻するなんて珍しいね~』とか
 『また遅刻して先生が怒ってたよ』とか当たり前の様に話しかけてくるから」

 私の時もそうだった。と、憎々しげに吐き捨てるゆり。
俺もその場を想像してみて、知らない顔が親しげに自分に向かってやってくる情景は、
なんというか、不気味で、異常なのだろうと思う。

「次は天使についてね」

 嘆息をつき、気を取り直すように少し大きめの声でゆりは続ける。

「彼女は少なくともNPCじゃない」
「なぜそう思う?」
「余りにも異端だもの」
「彼女は……あー、どう説明したものかしらね」

 がしがしと整えられた髪を乱暴に手で掻いて、
そしてまた嘆息を一つつき。耳元に手をやる。

「もしもし? 遊佐さん? ちょっと暇そうな男共を何人かこっちによこしてくれる?
 そう……うん、武装させて。……ちょっとね、新人勧誘で……わかってるわよ……じゃあお願いね」

 無線機……、だろうか? 誰かに向かって指示をだしている。

「という訳で、よく……見てなさい。彼女がNPCでも人間でもないって所
 その目でよくみて確かめなさい」

 言って。先程までの監視をメインとして構えていた銃の引き金に指をかけるゆり。
その横顔からはどこまでも真剣な表情と、僅かな鋭い殺意のような物が浮かんでいた気がする。

「私はいいから、向こうを見てなさい」

 タァン。と銃声が響く。
引き金を引く寸前に聞いたゆりの台詞を受けて白い少女の方を見ていた俺は、
閃光の様な光と、一本の線になる弾丸を辛うじて見ることができた。

 が、それは少女の横。
グラウンドの地面を捲り上げるだけに終わり、
銃声と自分に向かって飛んできた銃弾に気づいた少女が黙ってこちらを向く。

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  • このエントリーのカテゴリ : 雑記

Comment

No title

まさかABのスレを立ててたとは
支援できなくてすみませんね

Re: No title

> まさかABのスレを立ててたとは
> 支援できなくてすみませんね

いえいえ、時間帯も微妙だったし
スレがあったのも一瞬だったので
その気持ちだけでも嬉しいです。ありがとうございます


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