化物語イメージ 没作品01

 01.

 甘口団子と言う人間は名前が表すように甘ったるい人間でも
丸っこい人間でもないことはクラスの連中なら誰もが知っていることだ。
尖ってるとまでは言わないが、しかし甘口団子の態度に刺々しさ、
無愛想さなどを感じない人間は少ないだろう。

 甘口団子は常に朴訥とした表情で、ふと思えば神秘的だとかミステリアスなんて
形容したくなるような雰囲気を醸し出している。
今では新入生やすれ違い様に振り向くその他大勢に対して失笑を漏らす僕だって二年と少し前。
つまりは十五歳歴十ヶ月程度の頃、やはり同じように見蕩れたものであった。
その時の甘口団子の反応が「気持ちが悪い」の一言だったのだから、まったく彼女の性格が伺えるものだ。
その甘口と僕は二年間、今年で三年連続で同じクラス(我が校はクラス替えと言う概念はないので当然だ)
と言うことになるが、その性格に起因するものだろう甘口団子に話かけて会話を会話として
成立させることができる人物を今のところ一人しか知らない。
まあ、僕だが。
今では僕は唯一甘口団子と話す人間にもなっている。
今日だって甘口団子は指定席に座って窓の外を覇気のないいつもの朴訥とした顔で見ているのだった。
それは朝のHRから始まり授業中であろうがなんかしらの変化がある訳じゃなく、
思い出したかのようにするまばたき以外、身動ぎ一つしやしない。
まれに窓の外を眺める以外のことをしていると思えば、
僕なんかにはどこの国の言葉かわからないようなマイナーな哲学書や文学書を読んでいたりと、
とにもかくにも不思議な奴である。しかしそれでも甘口は非常に成績が良く、
教師にあてられでもすれば、淀みなく正答を答えるのだから。
僕のようにすべての問いに対してわかりませんと答えるよりも多分(五十歩百歩ではあるもの)性質が悪い。


 優等生と言う形容からはかけ離れているが、
しかし全教科学年一番と言うのはそう簡単に取れるものではないだろう。
素行がそれに比例するように悪いのが問題ではあるが。
授業態度に関しては前述の通りだが、しかしそれだけなら大したことではない。
最近の学生、いや、僕を含めた最近の若者と言うか、
そんな風に授業を上の空で聞いてる奴なんかクラスの半数くらいいる。
それくらいならかけ離れるとまではどうやっても転ばない。
授業が簡単すぎてつまらないと言う、できすぎる子供にありがちな現象だ。
だからそうじゃなくてもっと分かりやすい面、態度じゃなくて容姿、外面である。
いや、なにも眼鏡を甘口が掛けていないことを言ってるのでない。
そもそも甘口は委員長じゃない甘口に委員長をやらせたら学級はおろか学校崩壊は免れまい。
だから甘口の髪形はポニーテイルだ、長く艶やかな髪の毛を後頭部で束ねたふさふさのポニー。
 ピンク色の。
 ショッキングピンクでなく、普通の桃色チックな感じなのが救いと言った感じのピンク。
一般公立高である我が校でそんなファンキーな髪色をしてるのは当たり前だが甘口だけだ。
(しかもその桃色髪の毛が異様に似合っているのだこれはもう一種の才能だろう)
金髪…いや茶髪にしてるだけで白い目で見られる都会から離れたこの田舎町で、多分甘口は唯一のピンキーだろう。
そんな問題児が成績優秀と言うのは、素直に性質が悪いことだと思う。
それこそ前述の事などなど霞むくらいに嫌な事だ。
現に今も教師に指名されどっかの国の古い政治的事情について朗々と話している。
またこの声が非常に聞きやすく頭に入ってくる。


 甘口は普段、一対一で話しているとまるで自分が責められてるような錯覚に陥る程に
冷たい声をしているのだが。なぜだろう演説とかに向いてる感じだ、有無を言わさない的に。
政治家には決してならないでもらいたいが、しかし一面では向いてると言えるのかもしれない。
絶対にならないでもらいたいが。

 さておき、とりあえず当座における甘口の人物像の説明は大体終えたと思う。
 しかし個性的と言うか、単純に奇人変人の多いこのクラス、
 その中でも比較的普通な仲が良い甘口でこれなのだからまったく今後の僕の苦労がよくわかってしまう。
 まぁとにかく、甘口団子。
 彼女が今回の主軸である。


  02.

「甘口さんはなんだって?」
「なんでもいいって」
「あ、やっぱり?」

 クラス単位で何かを決める際、
最低限の手続きとして全員の意見を聞かなくてはならない。
そういった時、毎回僕は甘口と浮雲の中間で行ったり来たりする羽目になる。
まぁ大抵の場合は「なんでもいい」の一言で今回もまたそうだった。

 浮雲雪は委員長だ。
眼鏡もかけてる。
髪形は長いストレートで、この二年間と少し(やはり当然だが浮雲とも三年連続同じクラスで毎年浮雲が委員長だ)
幾度となく三つ編みに変えることを提案しているのだが毎度却下されている。
 残念。
 また、浮雲は優等生でもある。
 成績はそりゃ甘口には劣ると言わざるを得ない、
だがまぁそれは比較であって、底辺を彷徨いている僕からしてみれば
大して二人の間に差があるとは思えない。
(事実このクラスのテストの平均点が(僕みたいなのが居るにも関わらず、だ)
他クラスより毎度多少高いのはこの二人が同じクラスに居るからだ。
教師は一体何を基準にしてこの二人を同じクラスにしたのか甚だ疑問である)
代わりに浮雲は酷く人間ができている。これ以上ない人格者だ(ちなみに甘口はこれ以上ない人格破綻者だ)。

 そしてやたらとフランク、トップクラスの成績を持ちながら、
しかし僕のような出来の悪い奴にも対等に接してくれるいい奴で、
多分学校で一番顔の広い奴でもあるんだろう。
一年から三年生までの各教室から職員室や部活棟まで、彼女が道を歩けば必ず誰かが笑顔で話しかけてくる。

 また学校の授業等の所謂お勉強だけじゃなく教養の部分、
雑学と言うかやたらと広い知識を浮雲はそのちっこい身体に蓄えている。
それにガリ勉と言う訳じゃなく休み時間や昼食時なども楽しそうに談笑している姿を
よく見掛ける普通の女の子で、そういう点でも非常に好感が持てる。
 しかし浮雲はそんないい奴ではあるのだが時折そのベクトルが乱反射してしまうことがある。
結果として(この言葉は誤用の方が広く浸透しているため普通に使うのも些か緊張するものの)
所謂確信犯的行動にでることもしばしばなのだ。
先の例えで言うならば浮雲は甘口に話しかけても眉をひそめることなく嬉々と声をかけ続ける稀有な人間だったりするのだが。
悲しいかな会話にはまったくなっていない。
いつも黙ってる甘口に浮雲が述べつ幕無しに捲し立てるだけで、
まるで壁と話してる様ですらあるのに気にした様子もなく
つらつらと世間話に華を一人で咲かしているのだ。
しかも長時間どこにも行かず律儀に無視をし続ける甘口は、
浮雲が居なくなってから決まって僕で苛立った自分の鬱憤を晴らそうとするのだった。

「まったく、ヒッキーも積極的に聞き出そうとしてくれないしね…。甘口さんがどうでもいいって答えることをどうでもいいって思ってるでしょ?」
「まぁ確かにそれは否めないが、……その前に人を自宅で人生に大して籠城してる奴みたいに呼ぶな」

 緋樹神夏惹、僕の名前。

「でもさひっくん、甘口さんが心を君だけに開いてる訳よ? その辺どうよ」
「それだけ聞くと僕とあいつがただならぬ仲みたいだが、
 僕達は生憎そんなロマンチズム溢れるような仲じゃない。…あと人をしゃっくりの効果音みたいに呼ぶな委員長」
「委員長じゃなくて浮雲ですぅ、名前で呼んでよね!?」
「………」

 あと、やや情緒不安定。
 僕は浮雲の事を当然好ましく思ってるし、
彼女が居るから僕と甘口の話し相手がお互いのみという、
なんともお粗末なことにならずに済んでいるのだが。
(甘口からしてみればどうでもいい海外の政治経済情報を聞かされて
―海外の政治経済が世間話に入るのかは兎も角として―不愉快極まりないだろうが、
僕としてみればやはり唯一の話し相手が甘口と言うのは避けたい)。

 ただ一つ、やはりその点においてだけはやはりどうしようもなく彼女の欠点なのだろうと思う。
 だけどその僕らから見た欠点だって、他の相手には普通に映っているわけで、
まったく天が二物も三物も与えたような世の中の不公平さをひしひしと感じさせてくれる。
あげく僕には二物どころかそのまま荷物を背負わされてる気分で、
このうえ浮雲はその一般的なフレームの眼鏡を顔面から排除すれば見目麗しい容姿がさらにあると言うのだから、
これはきっと浮雲は人生のスーパーエリートなのだろうと、嫉妬なんて感じずにただひたすらに感動するばかりである。

「ねぇ聞いてる?」
「あたっ」

 叩かれた、他に強いて無理にでも欠点をあげるならこの微妙な手の速さだろうか?
まぁそれも親しみやすいとかフレンドリーに変換されるのだろうけど

「まったくヒッキーは対人会話スキルが足りませんな」
「悪意の波動を感じさせる発言だな、大体聞いてたのかどうか答える前に叩くとはどういう了見だ?」
「じゃあ聞いてたの?」
「もちろん」

 もちろん聞いてなかった。

「……ふぅん」

 さて、会話と独白がまったくと言っていいほどに関連性がなかったのであえて言うなら現在は学校の放課後。
先程甘口がどうでもいいと言い放った修学旅行の班分けを済ませ、大半の生徒が三々五々帰宅して、がらんとなった教室。
つまりヒッキー呼ばわりの前後で時間帯が少しずれている。
僕がほぼ予定調和の「どうでもいい」を届け、
それを受けた浮雲がため息混じりに「やっぱり」と呟いて黒板の暫定班でそのまま決定し、
帰りのHRを終えた後に僕の元に甘口に対する僕の態度に文句を言いに来た、というの流れ。
ちなみに甘口と僕は、当人である僕ら二人を覗いたクラスの総意によって
(僕と甘口が抜けた時点で総意と言えるのかはわからないが)めでたく同じ班に決まった。
ノリが良いというのも度を越えると集団で嫌がらせをしてるのと変わらないと言う手本であった。
(と言っても他に甘口と組める人間などいないのもやはり事実なので腑に落ちないながらも受諾した)

「長崎」

 黙々と四角い色紙を折り続けていた浮雲は唐突にその手を止めて呟く。
 机の上は様々な形に折られた色とりどりの折り紙が積み重なっている。

「長崎って言ったらチャンポンだよね」

 いきなりなにを言い出すのかと思えばこいつ。

「んなもんそこらでも食えるだろ」
「チェーン店じゃなくて本場のだよ」
「つってもチャンポンなんて僕にしてみりゃ麺の太い五目ラーメンと言うイメージしかないけどな」

 僕は食に対しての好き嫌いはほとんどないのだが、それでもよく食べるもの、
あまり食べない物と言うのがある。僕にとって麺類は基本的に素麺を除いて全て後者だ。

「そういうのを好き嫌いって言うんじゃない?」
「嫌いだから弾いてるわけじゃない、単に腹持ちの問題だ」
「素麺は?」
「夏は素麺とスイカを食べながら風鈴をBGMに花火を見るのが日本人だろ」
「冷やし中華は?」
「中華って入ってるだろうが」
「私冷やし中華派なんだけど……」
「非国民!」
「えぇ!?」


 平和ボケした会話だった。
 なぜかこの手のちょっとした趣向の話と言うのは盛り上がる。
ヒートアップしすぎて口論に発展することも多々あるのだけれど。

「そもそも修学旅行の行き先は長崎じゃなくて北海道だし」

 なにあたかも長崎に行くような雰囲気だしてるんだよ。
 びっくりするなぁ。

「はぁ、飛行機って乗ったことないんだ私」

 言いながらぱたぱたと再び折り紙を折って返し、
多種多様な形を作っていく。僕はその中でもよく知っている形のものを拾い上げる。

「鶴って、一体なにがどう転んで千羽集まれば願いが叶うなんて豪気な話がでたんだろうな」

 他にも擦ると魔神が出てくる古ぼけたランプとか、一年に一度しか会えない天人の恋人とか。

「ま、確かに人の願いを叶えてくれる御伽話ってのはあとを絶たないよね」

 それはきっと自分じゃ何もできなかった奴が考えた現実逃避の空想。
他力本願。

「君は歪んでます」
「ほっておけ」

 言ってる内に三つ新たに鶴が並べられた。
 うん、やっぱり紫や赤より白一色が鶴には似合うものだ。
 だけどよくこんなに色々知ってるなものだ
、僕なんか小学校卒業して以降一度も折り紙なんかしたことなかったし。
当時にしたって折れるものなんて高が知れてた。

「じゃ、あれだ、緋樹神君に手伝ってもらって試しに鶴を千羽折ってみる?」
「無茶言うな」

 いま僕の目の前にある物で鶴も含めてまともに折れるのなんて一つたりとてない。

「でも、もしも本当に願いが叶うとして」
「…?」

 やおら真剣になる浮雲。そのくせ表情的には嫌に素敵に不敵な笑みを浮かべている。
 一拍前までの砕けた調子はどこに行ったのか。

「もしも願いが叶うとしたら緋樹神君はなにを叶えてもらうのかな? うん?」
「なんでそんなことを聞くんだよ…?」
「何事に対しても消極的な緋樹神君が自分のためになにを願うのか、気になるじゃない」


 そう悪戯っぽい笑みを浮かべる浮雲に対し、僕は。


 03

 僕は委員長として委員長らしく教室の戸締まりやら諸作業をすると言う浮雲に別れを告げ、
私物しか入っていないカバン(欠片も受験生の自覚が見られない僕)を片手に教室をあとにする。
既に下駄箱前の扉は閉められてるだろうから靴をとって職員用玄関からでないといけないだろう、
なんて考えながら階段を降りる。

 歴史あると言えば聞こえはいいものの校舎を含めたなにもかもが古いだけの我が校。
金属製の下駄箱も例外ではなく、あちこちが酸化鉄で赤茶にコーティングしてあり、
靴を取り出そうとその小さな扉を開けば、もれなく甲高い掠れた音がひび割れたコンクリの壁に鳴り響く。
暗くなり始め、人のいない場所で鳴る耳障りな音は否応なく僕の心の嫌な部分をいい具合に刺激してくれる。

「ん?」

 ふと、靴に掛けた指に違和感を感じる。
僕の使ってる下駄箱は一番上の段にあるため踵の付近の布しか視界に入らないので、
とりあえずそのスニーカーを引っ張りだす。
 ……なぜ、僕のスニーカーの内側で紙切れが画鋲で磔獄門の刑に処されているのだろうか?
僕は画鋲を引っこ抜きその紙切れを手にとってみる、中敷きに空いた複数の一ミリ程度の穴がなにやら非常に切ない。
小学生じゃないんだからまさかこんな低レベルな行動でいじめと言うわけでもなかろうと、
磔にされていた紙切れを裏返すと、案の定、甘口の物と思わしき理路整然とした字で数行。
僕宛の罵詈雑言が書かれていた。
 僕はビビりながらその短文を数度くりかえし読み直して、その紙切れを畳んで財布にしまった。

 内容は暴言を除いてから簡潔にまとめると。
『今日は金曜日なので下駄箱でしばらく緋樹神君を待っていたのだけど、
あまりにも遅いから先に帰ってる。明日埋め合わせしてもらうからそのつもりで』

 以上のようになる。
 ……まいった。
 僕はその後、諸作業を終えた浮雲に声をかけられるまで頭を抱えて、呻く作業に没頭していた。



 ここまで、化物語を思いっきりイメージして書いた没稿
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