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妹「お願いだから死なないで」







「まぁ、なんでもいいけどさ。
 人間って儚いって事だよ」
「それは同意だな。儚い、良い言葉だね」
「良い言葉とは、思わないけどな」

 空を仰ぎながらあっさり僕の言を一蹴する後追。
僕も儚いという言葉、実の所全然良いとは思ってないのに
その場の雰囲気的にこう合わせてやったのだが。
まさかの展開だった。

「儚い。今にも消えそうで、朧で、曖昧で、有耶無耶で。
 手を伸ばせば掻き消えて失せてしまいそうな、存在。
 俺は決してそんな物が良いとは思わないし、思えない」

 呟くように口にしてから、
彼は逃げるように屋上の唯一安全な出入り口である
錆びた鉄製の扉に向かって言ってしまった。

「帰るのかい?」
「あー、いや。教室に戻る」
「ふぅん」

 言って、別れの言葉もなしに重い扉が軋む音と
それから大きな閉じられる音がして後追の姿はここから消えた。

―――

「ほら、起きなさいよ掃村。もう放課後よ?」

 屋上の変わらず汚れたコンクリートの上、
時間が経ち太陽が傾いた所為でいつのまにか
僕が居る場所は影になっていて、
高いところの為に時折吹く強い風邪と合わさって
まるで縮こまるネコの様に寝ていた僕はそんな台詞で目を覚ました。

「ん……。あと五分」
「そんな定型句はいらないから、早く起きなさいよ。
 あと少しで完全下校時刻過ぎて屋上も鍵かけられちゃうわよ?」
「……うぃっす」

 お決まり。
王道とも言える言葉の応酬をこなしてから僕は起き上がる。
硬いコンクリートで長時間寝たおかげで全身が軋むように痛むが
それは若さでカバーをする方向性で。

「おはよう掃村」
「……おはよう大神」

 欠伸を殺しながら、髪に付いた小さな塵を払いながら
周囲をぐるりと見渡してみると、
運動部の練習も終わり本格的に学校から人が居なくなってるのが見て取れる。
なるほど、大神が僕を起こしてくれなければ危うく翌朝まで
屋上に僕は締め出されるという事にマジでなっていたかもしれない。

「状況確認はできたかしら?」
「えっと、まぁ、うん。できたけど」
「けど?」
「大神がなんでここに居るのかがわからない」
「まだ寝ぼけてる? 私、あなたを起こしたんだけど」
「なんで起こしたんだと聞いてるんだよ。
 いや、屋上に放置されたかった訳じゃないけど
 こんな時間までなにを校内でしてたのか気になって」
「え? えっと、それは、まぁ色々よ」
「色々?」
「そう色々」
「そっか、色々やってたなら仕方ないか」
「そういう事よ」

 とかなんとか少し年相応の事を考えてみたはいいけれど、
実際のところ僕の心境はどうなのかと言えば
至って平静というか平坦ですらあった。
大神郁瀬はどちらかと言えば起伏に乏しくはあるものの
総合的に言えば十分可愛い女の子であることに間違いはない。
ないのだけれど。うむ、どうにもときめきという感じは僕には生じない。

「あぁ、下駄箱はもう閉まってるから
 靴を取って正面玄関から帰ってね」

 使用頻度が低く、
且つ清掃範囲から外れている為に埃の溜まった階段を下りていると
大神はふといま思い出したかのようにそういった。
“帰ってね”と、まるで他人事のように言い切った。
教師だったらともかく、同じ学園の生徒であるのだから
この場合はそんななげっぱに発する場面ではないと思うのだけれど。
“帰ろう”とまではいかなくても“帰らなくちゃいけないんだ”みたいな
そんな物言いが一般ではないのだろうか。
副委員長といっても、生徒会役員ではないのだし
遅くまで残される用事などありはしないと思うのだけれど。

 うん、まぁいい。
考えに耽るのはあまり得意ではないし、
いくら変に思ったところで僕はそれを口にすることはなく
言われたとおりに靴を持って正面玄関から帰路に着くだけ……。

「ってしまった、僕教室に鞄置きっぱなしだった」

 さっき大神が僕を探しに来た理由みたいな思考で
置きっぱなしの鞄と靴を例に挙げておきながら
すっかり忘却していた。
もう下駄箱の目の前だっていうのに
また三階の教室まで行って帰ってこなくてはいけないのか。

「鞄? 別に明日でもいいじゃない」
「副委員長の癖にアバウトな発言だね。
 まぁ授業を受けるには全部置いてってるから問題ないけど
 そういや僕今日一日屋上で寝てた訳だから手付かずの弁当とか鞄に入ってるんだよ、
 この季節に弁当を一日放置は怖すぎる」

 それに大量の私物も問題だ。
あまり手から離しておきたくないし、
それに毎朝今日は何を持っていこうかと重さと大きさと重要度等を判別しながら
鞄に私物を詰め込むのは僕の日課兼趣味なのだ、ここは譲れない。

 僕は軽い調子で放置を推そうとする大神の意見と
自身の趣味趣向プラス防犯意識のどちらを優先するか一秒強悩んでから、
大神を残して小走りで先程降りてきた階段を上って教室に向かった。
その際後方で大神がなにかしらを言った気がしたが、
僕の耳には生憎と聞こえることは無かった。

「……あったあった」

 三階の廊下、
並んだ教室の一番奥にある突き当りにある
夕暮れの太陽に橙に照らされた誰も居ない教室で
僕は自分の鞄が自分の机に変わらずぶら下がってるのを見つけて
微かにあった不安を安堵に変えながら呟き、
脇のフックにかかったそれに手を伸ばした。

「やぁ、掃村」
「っ!?」

 手を伸ばし、鞄の取っ手部分に手が触れたと
ほぼ同時に背後から突然かけられた声。
反射的に身体があからさまに竦み驚きを表現する。

 精神的には冷静なのだが、
肉体的にはその一瞬の驚愕で心臓は跳ね
額には冷や汗が伝っている。

「深巫、そういう悪戯はやめて欲しいな」

 バクバクと音を立てる心臓を宥め賺しつつ、
僕は振り向いた先、教室の中ほどにある柱の影に立っていた
深巫に不平を口にする。

「いやすまない。君がそこまで驚くとは思わなくてな、
 ははっ、思えば滑稽な様だったよ。
 こんな時間の教室で一人で居る君が身体を飛び跳ねさせる姿は、
 まるで女子のリコーダーを手にしようとする小学生のようだ」

 悪びれた様子も無しにくすくすと笑って
こちらに歩いてくる深巫に僕は嘆息を吐く。
言うだけ無駄、それはなにも僕の机を椅子扱いすることや
その奇矯な言葉使いなどに限らない。

「で、なんだよそんなところでわざわざ待ち伏せして。
 とっとと帰ればよかったんじゃないか?」
「君は本当に酷い奴だ。僕等は友達だろ?」
「まー、そうだけどさ。流石にこんな時間まで待たなくてもよかったんじゃないかな、
 僕がそのまま帰ってたらどうするんだよ」
「君が鞄を放置して帰るとは思えない」
「……さっすが」
「任せたまえ」

 足の曲線美とは裏腹に残念な胸を張って、
尊大にふんぞり返る僕の友人に呆れた目を向け。
僕は心臓がほぼ元通りの心拍に戻ったのを感じつつ
こんどこそ自分の鞄を掴んだ。

「……ん?」
「どうかしたか?」
「いや、お前僕の鞄弄ったか?」
「まさかそんな真似はしないよ、後が怖い」
「……だよなあ」
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Comment

No title

続きが気になるせいで警備に穴ができたらどうするんだ

Re: No title

> 続きが気になるせいで警備に穴ができたらどうするんだ

それは俺のせいじゃ無いと信じたい


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