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『誓い』


「俺達、付き合ってるんだよな?」

 俺がふと、机に頬杖をついてぼそっと呟くと
バンと強く本が閉じられる音が俺の台詞に重なるように耳朶に届く。
見れば俺が吐いた台詞の矛先の少女は目を瞑り
分厚い本を膝の上に置いて黙っている。
俺はため息を付いて開いたままの窓の外を見る、
白い木の窓枠に沿って白いレースのカーテンが揺らめき
その向こうで雲が一定の速度で形を流々と変えながら風に乗っている。

「交際って意味ならそうなんでしょうね」

 硬いハードカバーの本を膝の上で持ち直し、
その太い背表紙を一旦指でなぞり上げて
向かいに座っていた俺の頭をポンと叩く彼女。

「あんたもくだらないこと言ってないで、
 情緒豊かになる本の一冊でも読みなさいよ」

 くだらないことと一蹴され一笑に付されてしまったが、
しかしまぁ一応肯定だけはしてもらったので俺は静かに
白く円を描くテーブルにそっと置かれた本を受け取る。

 それをじっと見つめていた彼女は
俺の額に人差し指を突きつけて「絶対に読みなさい」と念を押して
座っていた椅子から立ち上がり颯爽と部屋を出て行ってしまった。
残ったのは俺と風に身を躍らせるカーテン、
そして風に外の雨露に濡れた若葉の匂いと
壁際に置いたラジオから流れるノイズ交じりの音楽。

「……では早速、賢くなった錯覚でも手に入れに
 読書の世界に入り込んで見ますか」

―――

 適当に硬い表紙を開き、時代と歴史を感じさせる少し黄ばんだ紙を捲り
連なる文字と、そこから生まれる物語という
文学の世界に思考をゆっくりと移行させていく。
そして案外すんなりと序章の十数ページを読み終え
一章に入りってから更に読み進んだところで、一枚。
まだ俺が読むには遠いだろう中腹辺りのページに
小さな小さな、手製であろう花柄の栞が挟まっているのに気がついた。

 彼女の好きな、桜の花が端にあしらわれた
世界にたった一枚の栞が挟まれているそのページを、
俺は特に意味も無くちょっとした興味で開いてみた。

『君は永久に美しくありたいと願うか?』

『全てに忌避されて、知り行くもの皆朽ちていく中、それでも永久を願うか』

 訥々と、小難しいようでどんな人種の人も、
どんな性格の人も、どんな環境の人も、どんな時代の人も、
きっと一度は巡らす、遠い幻想の如き大きな夢物語。
人魚を喰らってでも手に入れたがった、永遠の命。
残るのは、まるで玉手箱を貰うことのできなかった浦島太郎のような世界。
俺はなんとなしにそのページを眺める。

 本当になんとなく、そこに書かれている文章を吟味するように
ゆっくりと読んでいると一箇所に傍線が引いてあるのに気が付いた。
決して元からあったものではない、ボールペンで書き込まれた少し歪んだ線
そして同様にボールペンで行われた台詞の訂正。

『僕は世界が例え僕だけになろうと、僕にどんな災悪が降りかかろうと
 それでもひたすらに彼女を愛し続けるのだ』

 僕に線が引かれ私、彼女に線が引かれあなたに変更された台詞。
それは、先程挟まっていた栞の事も相俟って、
俺に、まるでこの本を俺に授けた少女から言われたような錯覚をもたらす。

 そして風に舞ってテーブルに滑り落ちた栞を拾おうとして気づいた
裏側に書かれた短い文章、その言の葉。

『その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも
 富めるときも、貧しいときも、私を愛し、私を敬い、私を慰め、私を助け
 その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか? Y/N』

 細くはっきりと書かれた誓いの言葉、その改編形。
それを俺は栞を拾った体勢で硬直したままじっと見つめ
二度三度と文章を読み直してから迷わずに
胸ポケットに入れてある万年筆で二つ並んだアルファベット
そのYの方を丸で囲む。

「本当に?」

 直後かけられた、女性の涼やかな声。
いつから居たのだろうか、本の主の少女が窓の外から
窓枠に寄りかかるように室内に乗り出して立って
俺の手を、手の先を、一枚の栞の字列を、じっと眺めていた。

「あぁ、当然だろ?」

 青い空と緑の木々を背景に微笑む少女を見て、
俺は断言し、そして少女からの返事を待つ。
少女は一息、強く息を吸って。

「……その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも
 富めるときも、貧しいときも、あなたを愛し、あなたを敬い、あなたを慰め、あなたを助け
 この命ある限り、真心を尽くすことを――誓います」

 そうきっぱりと言い切った。
持っていた本をテーブルに置いてから、
椅子から立ち上がり風になびく髪を
そっと撫で付ける少女へ歩み寄る。

「指輪はないから」

 少女の額に自分のそれをあて、
至近距離で彼女の栗色の大きな瞳を見つめる。
少女は少しだけ照れたようにはにかんで見せてから。

「誓いのキス、ね」

 風に乗ってふわっと甘い香りがした。



―――

 一年前くらいに書いた奴を掘り起こして見た。
 無駄に甘いっつーか脈絡がない。

 イメージとしてはこの家はオーストラリアとか
 あっちの広い緑の周りには何も居ない丘の上に
 ぽつんと建つ洋風の白い大きな家。

 日本だと軽井沢のペンションとかが少し近いかも知れない
 とにかくそんなイメージ、もっと画力があれば描きあげるのに。
 
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Comment

No title

脈絡がなくてもストーリーがあって、なおかつ面白い。
てか、上手いよなあ。


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