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妹「お願いだから死なないで」

733 名前: ◆7SHIicilOU [saga] 投稿日: 2010/03/10(水) 18:39:14.05 ID:0ZxbfFIo

 01.

 夜の蜘蛛は殺せ。
 朝の蜘蛛も殺せ。

 02.

 僕の妹はおかしい、
狂っていると言って過言で無いほどに、おかしい。
親戚の間でも忌避され阻害され、
聞くところによるとクラスの方ででも孤立し孤独らしい。

 学校を歩いていれば一日に一度は妹の話題を耳にする、
今日はなにをしたとかしてないとか
昨日はなにをやらかしたとかどうとか
そんな妹の一挙手一投足の話題が、絶えない。

 けれど僕はそれに対して
なにか策を講じようとか言う助ける気持ちや、
可哀想とかどうとか言う同情の感情を持ちはしない。
持つ意味が、無い。

 迫害される。
多人数が同一の空間で同時に過ごすという行為上、
大なり小なりそれは当然どこかに生じる自然現象だ。
その対象が妹だと言うだけでそこになにか感慨を持つほうがおかしいのだ。

 あって当たり前の事象。
それに対してわざわざ手を出すほど僕は傲慢じゃない。
――いや、そもそもとしてだ。
狂っている僕の妹は、そんなものを必要としていない、
迫害されて居ながら、僕の妹は自身のクラスの中心に存在する。
というよりも、中心に存在するからこその、孤独なのか。

 中心は、単一。
その他大勢から一定の距離を取られた円、その真ん中。
あそこまで行き着いた奇人を、僕は妹以外に知らない。
734 名前: ◆7SHIicilOU [saga] 投稿日: 2010/03/10(水) 18:39:36.50 ID:0ZxbfFIo


「おはよう」

 音を立てて立て付けの悪い教室の扉を開く、
勿論、妹のではなく自分の教室の扉をだ。
すると既に登校しているクラスメートは
当然のように僕に挨拶を寄越す。
僕も、それに平然と答えながら自分の席に腰をかけ
鞄を机脇のフックに掛ける。

 と同時に深巫が机にするすると近寄ってきて
僕の机の上に座る。

「やぁ、元気?」
「そこそこだけど」
「それはそれは重畳だ」
「深巫はどうなんだい? あまり顔色がよくないけど」
「二日目だ」
「そうか、それはそれは重畳だ」

 僕は会話をしながら鞄から机に私物を移動させる。
机に座り頭上から言葉を投げかけてくる女子に文句を言ったりはしない、
言うだけ無駄だと知っているからだ。

「しかし掃村、毎度ながら凄い量の不要物だな」
「君も、毎度ながら学校に全く荷物を持ってこないね」
「シャーペンと消しゴムさえあれば問題ないからな、
 ノートと教科書は全て置きっぱ」

 深巫。
フルネームは深巫秤というクラスメートの女子で、
僕の友人の一人。口調が少々風変わりだけれど
それはそれで個性だろうと僕はなにも言わないで居る。
同様に、休み時間の度に僕の所に来て
僕の机を椅子代わりに使うことも、何も言わないで居る。

「しかし今朝はずいぶん豪快だったね。
 妹さんになにを言ったんだい?」
「別に大した事じゃないよ、普段どおりさ」

 妹、妹、妹。
僕の一つ下の妹。
今日の登校中、下駄箱で語った電波な発言を一蹴した僕の首根っこを捕まえて
安い金属製の下駄箱を人形に凹ます勢いで叩き付けた妹。
狂っているというか、ただただ馬鹿力の方に目が行く。


735 名前: ◆7SHIicilOU [saga] 投稿日: 2010/03/10(水) 18:39:56.40 ID:0ZxbfFIo

「君も馬鹿だね」

  深巫は僕の机に腰をかけたまま、
上体を前後に揺らしながら笑って僕を嘲る。

「毎度思うけれど、君は実の所極度なマゾヒストなんじゃないかい?
 でなければ態々危険を冒してまで妹さんを挑発したり刺激したりはしないよ」
「僕の妹は爆弾か」
「似て非なるものだね、放って置く分には問題ないし
 むしろ表面上だけでも同意してあげたり乗ってあげたりすれば普通にやり取りも成立する」
「それは成立してないと僕は思う、
 二人が同じ壁に向かってボールを投げてるだけだ、キャッチボールじゃない」
「上手い事言うね」「それはどうも」

 実際、今朝の妹とのやり取りも
別に成立してるとは言い難いなにかだった。
妹が一方的に訳のわからない話を捲し立てて僕に迫り、
無視を続けていた僕が流石に一言くらい相槌でも打ってやろうと
口を開いた瞬間に首根っこを掴まれたのだから。
あれは逆でも半でもなく、ひたすらに意味不明なキレだ。

「君は妹さんが可愛くはないのか?」
「可愛いとは思うよ。客観的に見てあれは美人だ」
「そういう意味じゃない掃村。愛着とかそういう意味だ」
「ないよ。兄弟は他人の始まりって言うしね、
 血の繋がりがある訳じゃない、同じ血が流れてるだけだ。
 だったら君と僕も同じことだろう」
「淡白だ、冷淡と言っても良い。
 まがりなりにも十数年の時間を共にしてる癖に」

 時間、ね。
問題なのは時間じゃなくて距離だ。
百万光年じゃないが、どれだけ同じ時間を過ごそうと距離があればそれは親密ではない。
僕と深巫は親しいけれど、それは時間を長く過ごしたからではなく
単に距離の問題だ。

736 名前: ◆7SHIicilOU [saga] 投稿日: 2010/03/10(水) 18:40:32.89 ID:0ZxbfFIo

 そんな、まぁ世間一般とは少しばかりずれた
華どころかそもそも芽吹きもしない
世間話に興じているとガラリと黒板側の扉が開く。
HRまではまだしばらく時間があるので教師ではなかろうと扉の方を向くと
案の定クラスメートが一人、扉付近の女生徒と挨拶を交わしながら自分の席に歩いていった。
僕はその様を横目で眺めながら会話を続ける。

「十数年一緒に過ごしてるからこそ、
 あいつがもう手遅れだって事がわかるんだよ」
「手遅れ、ね。私はそう思わないけど」
「深巫はそうかも知れないけれどね」

 投げっぱに言い放つ、
この話題はこれで終わりにしようという合図だ。
なんで自分の妹の狂いっぷりについて歓談しなくてはならないのだ。
僕は少し息苦しさを感じながら制服の首元を指で引っ張る。

「ふむ、保健室にでも行っとくか?」
「どうしてだい?」
「首に痣が残っている」
「……」

737 名前: ◆7SHIicilOU [saga] 投稿日: 2010/03/10(水) 18:41:16.40 ID:0ZxbfFIo

―――

 僕の妹が狂っていると判明したのは、
はていつ位昔の事だったか僕は今一記憶に残っていない。
というのも、僕と妹は先刻言った様に一つしか年が違わないので
妹が幼い頃というのはイコールで僕の幼い頃な訳で、
当然記憶というのも曖昧模糊とした物にならざるを得ない。

「お兄ちゃんは凄いんだよ」
「僕がすごいの?」
「うん。お兄ちゃんはとっても凄いの、私はそれを知ってるの」
「そっか、僕はすごいのか」
「とっても凄いの、それで格好良いの、細い剣でばしばし倒すの」
「なにを?」
「人間」

 幼少の頃、記憶に残る最古の妹とのやり取りはこんなだ。
当時の年齢を考えれば微笑ましい兄妹の会話なのだが、
今の妹を思えばこれは片鱗とも言えるなにかだったのかも知れないとすら思う。
疑心暗鬼、暗中模索と言った感じだ。

 如何せん、妹の心中など僕には計り知れないので
憶測、推測、推察、そう言った仮定に仮定を重ねた思考が
妹を語る上でほとんどを占めてしまう。

 狂っている、というのもだからそれは一般論であって
それが正しいとは限らないのだ。
それが真理だとは誰も言ってない。
ただただそうであろうと思っているだけ、
思っているだけの、机上の空論みたいなもの。
正当性など、一ミリも無い。

 妹は、妹なのだから。

738 名前: ◆7SHIicilOU [saga] 投稿日: 2010/03/10(水) 18:41:35.35 ID:0ZxbfFIo

「掃村」

 授業終了の鐘が鳴って教師が教室から退出する、
と時を同じくしてすぐ隣の席に座って授業を受けていた深巫は
そのまま座ってる椅子をこちらに向ければ済む話なのにも関わらず
一度席を立って僕の机によいしょと形の良いお尻を下ろす。

「どうした、浮かない顔をしているようだけど」
「君ほどじゃないよ、腹痛の波は去ったの?」
「あー、まー、普通かな」
「そうかい」

 くすくすと、不意に深巫が笑う。
愉快そうに痛快そうに、嫌らしい表情で笑う。

「しかし君も天邪鬼だ。
 他人に妹さんの事を語られるのは好ましく思わないくせに
 自分自身の頭の中は妹さんの事で一杯かい?」
「……なにを言ってるんだい君は」
「授業中、随分と物思いに耽っていたみたいだけど?
 授業にもっと集中した方がいいと私は思うよ」
「その言葉そっくり君に返すよ、
 僕を見てる暇があったら黒板を見ろって」
「ふふっ、あんまりにも横で集中されているようだったから
 ついつい気になってしまって困りものだ」

 一人で頷きながら笑う彼女、
僕は嘆息を一つついて席から立ち上がって背中を向ける。

「どこに行くんだい?」
「屋上」
「一昔の不良みたいだね、授業はどうするんだ?」
「……さぼるよ」
「そうかい、では私は知らぬ存ぜぬを通すか」
「頼んだ」

739 名前: ◆7SHIicilOU [saga] 投稿日: 2010/03/10(水) 18:41:44.57 ID:0ZxbfFIo

 休み時間特有の教室の喧騒を抜け
僕は人の少ない廊下を一人歩く。
昼の休みならともかく授業間の短い休みで
トイレ以外の理由で教室を出る人間は少ない。

 ふと、廊下の反対側の壁、そのほとんどの面積を覆う窓を見てみれば
外は快晴、雲ひとつ無い空から降りる日光に中庭が照らされ
比較的大きな池で定番の鯉がのんびりと泳いでいるのが見て取れた。

「気ままだな、羨ましいとはおもわねえけど」

 意味も無い呟きを唱えながら
廊下を渡り、購買前にでる階下への階段とは別の
登り階段を音も立てず歩く、
教室から漏れる生徒達の声は聞こえるものの、
やはり誰とも遭遇しない。
僕みたいな天邪鬼や、もしくは。

「んだぁ? ……あぁお前かよ」
「気持ちよさそうだね、後追」

 彼のような、気まぐれ者が居ない限りは。

740 名前: ◆7SHIicilOU [saga] 投稿日: 2010/03/10(水) 18:41:50.91 ID:0ZxbfFIo

 後追 咲良。
僕の友人の一人、男子生徒。
同級生ではあるがクラスメートではなく、
正直に言ってしまえば僕は彼がどこのクラスに所属しているのか知らない。
ただ以前一度見た生徒手帳の色で同輩であるとだけわかっているだけで、
僕はこいつとこの屋上以外の場所で顔を合わせた事がない。

「なんか用か?」
「九日十日。……別にそういう訳じゃないよ、単に寝転がりたくなっただけだ」
「ふぅん? ま、確かに今日は気持ちが良いぜ。
 暖けぇし、午前は運動系の授業もねぇから静かだしよ」
「そいつは良い事を聞いた、昼までここに居座ろう」
「勝手にしろ。俺の場所じゃねーし」
「だね」

 雨風で汚れた屋上のコンクリート、
そこに大の字になる後追の横に僕は腰を落ち着けた。
コンクリートは日光でほのかに温まり、
少し前まで他人が座っていた椅子の感触を思い起こさせてくれる。

 次いでごろんと制服が汚れるのも構わず
背中をべたりとつけて寝そべる。
当然上空に浮かんでいる太陽が思い切り視界に入り
目が眩み、閉じた瞼の裏に残像として残る。

「空ってさぁ、広いよな……」

 瞼越しに日光が眼球を余すとこなく照らし、
血液の赤で視界が染まるのを感じながら
しばしの間時折流れる風を受け止めていると
不意に隣で転がっていた後追が口を開く。

「そりゃ、そうだね」
「なんで、広いんだろうな」
「地球がでかいから、その周りはもっとでかいんだよ」
「ふぅん。地球がでかい、ねぇ」

741 名前: ◆7SHIicilOU [saga] 投稿日: 2010/03/10(水) 18:41:57.95 ID:0ZxbfFIo

 意味ありげに言を濁す隣の友人に、
僕は何を言うでもなくいい加減目が痛み始めたのもあり
寝返りを打って横向きになることで答えた。

「俺はそうは思わないんだよな」
「はぁ? 地球が小さいって? 君はどんだけスケールの大きい人間だったんだよ」
「そうじゃなくて、地球が大きいと感じるのは人間が小さいからだと思うんだよ」
「……言いたい事がわかんないな」

 僕は目と太陽の間に腕を居れて影を作り
少しだけ瞼を開いて後追に目を向けてみる。
後追も似たような体勢でこちらをみていて目が合った、
……軽く死にたい。

「あー、つまりさ」

 そのまま続ける後追。
屋上で授業サボって男同士寝転がりながら
見詰め合っての談笑って一体どうなんだろうか。
僕としては一刻も早く目を逸らしたい。

「俺ってさ、ちっちゃいじゃん?
 高々170と数センチ程度な訳だ。
 これが、まぁ大体平均だとするだろ?」
「うん」
「となるとだ、人間って実は世界で一番ちっせぇ生き物なんじゃねえかなとか思うわけだ」
「一番小さいって訳はないだろ、
 いくらでも小さい生物は居るさ。微生物だけでも種類がいくつあることか」
「そうじゃなくてさ。
 そいつらみたいに、もっと小さい生物ってのは
 地球単位じゃなくて、もっと狭い世界ってのを持ってるだろ?
 人間ってのは、変にそいつらよりもでかいから本当の大きさを知って
 それと比肩して小さく感じちゃってさ」
「あー、わかるようなわからないような」

742 名前: ◆7SHIicilOU [saga] 投稿日: 2010/03/10(水) 18:42:00.32 ID:0ZxbfFIo

 自分だけの世界、
自分だけの世間、
狭くて、小さくて、身近で、至近で、
だからこそ自分を確立できているわけで。

「地球はさ、いつまでも板状で端に行くと落ちるとか行ってるレベルでよかったんと思うんだよ俺は。
 だっつーのに地球のでかさ知ってよ? 宇宙とか意味わかんねぇ世界にまで手ぇ伸ばして
 一体なにがしたいんだっつーの。そんなに自虐行為が楽しいかね?」
「知識欲とか好奇心とかの問題だよそれは、
 見方の問題だと僕は思うけどね」
「俺はネガティブなのかね?」
「前向きではないと思うけどね」

 はぁとため息を一つついて後追は僕から目を外して起き上がる。
僕は、それに釣られた訳じゃないけど、
なんとなく同様に起き上がる。
黒で統一された制服が異様に熱を持ち始めたからかも知れない。

「まぁ、なんでもいいけどさ。
 人間って儚いって事だよ」
「それは同意だな。儚い、良い言葉だね」
「良い言葉とは、思わないけどな」
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Comment

No title

なんというか読者に恵まれなかったな
どんまい

No title

いや、スレでも書いたように
いつもの事だから
それは読者云々じゃなくて
自分の至らない所として認識してるよ
うん、単なる実力の問題だね

No title

単純に出会えなかった俺はどうすれば・・・

実力云々って言うよりは、読者の質の問題な気がする

No title

凄く続きが気になる・・・
読書の質とは言わないけどその時の読者に合う合わないは有りそうだな


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