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うてこさんの話 その2

 友人の虚言に付き合った後、
僕は新居となるアパートの一室に移動した。
と言っても僕はまだ学生の身分なので大した場所ではなく
少々年季の入った1DKなのだけど。

 ダンボールの詰まれた部屋の中心に腰を降ろし、
ゆっくりとまだ染みのない壁紙や傷の無い床を眺める。
配送する際にダンボールの上部に内容物を書くという
引越しの基本をすっかり忘却していた僕、
正直どれから手をつけたものかわからず呆然とする。

 そうして意味も無く佇んでいて、
頭に湧き上がってくるのは昨日の光景。
圧倒的に不自然な、ローカルの中の日常風景。

 うてこさん、ね。

 ……センスねえなぁ、
誰だよそんな呼び方を最初にした奴。
つか何者だよ、いつもうつむいてるって
何を考え込んでるんだ、どれだけ思考に集中してんだ。

 見たところの年齢、
僕はあまり女友達に恵まれた方ではないので
女性の外見で年齢を察するのは苦手だし、
特に一定の年齢を超えた女性は自身の年齢を詐称しようと躍起になってるので
更に判別しがたいのだが、多分それでも僕より年下だろうと推察する。
小さかった、本当に小さかった。
まっすぐ並べば僕の胸辺りに頭頂が来るような身長、
よもや僕より年上ということは無かろう。

 がつ、と勢いよく寝転んだ際に後頭部を床にぶつけた。
万年床の癖で他人の家とかでよくやってしまう、
いの一番にだすべきは布団の類か。
疼痛を訴える頭を抱えつつ
なんとなく反骨精神で起き上がり何事も無いように
カーテンの一つも無い窓に向かい外を見渡す。

 別に、カーテンが無くて部屋が丸見えだから
もしかしたら今の僕の醜態を見ていた人が居たかも知れないと言う
危惧にかられた訳では決して無い。
ここ、一応二階だし、大丈夫だと思う。

「……」

 まるで、あーここが僕の新しく住む家、
新しい街かーとか爽やかに思ってる好青年のように
窓枠に手をかけて開いた窓から半身を乗り出して風を浴びていると
眼下に知った顔を見つけた。
知った顔、といってもその相手と知り合いという訳じゃない、
一方的に知ってるだけの相手。
そういう意味じゃまるでテレビの芸能人のような、そんな少女。

 うてこさん。
だっせぇ名前、とか失礼にも程がある感想を再度浮かべる。
まぁ実際本名は知らないし、
他に彼女を指す単語が全くないのでそのナンセンスな呼び方を
採用する以外僕に選択肢はないのだが。

 ……うてこさん。
彼女自身はそれを受け入れてるのだろうか?
周りが騒ぎ立てて居ても、
その中心の人間は案外気づいていなかったりする物だ。

 その辺、商店街の人気者とかとは違う。
よく漫画とかである苦学生で社交性のあるキャラとかが
商店街のおじさんとかとすげえ仲良しで
おまけしてもらいまくりみたいな描写あるけど。
俯いてテコテコしてる彼女にそのようなフランクさは無いように見受けられる。

 ふむ、友人の言っていた事を確かめる意味でも
彼女をそのひらがな三文字で構成された愛称で呼んで見ようか。

「は、はい? な、な、なんでしょうっ?」

 引越し当日のテンションなのかなんなのか、
僕は普段なら考えられない奇矯な勢いに流されて
初対面の女の子に二階から愛称で呼びかけるという行為にでた。

 そしてその結果は以上のような台詞。
思いつめたような面持ちで足元のアスファルトを見つつ歩いていた少女は
はっ! と顔を上げてキョロキョロした後に
上空から顔をだす僕に気がついて軽くテンパりながら返事をしてくれた。

 なるほど、一応自分がそう呼ばれてる事という認識はあるのか。
友人の言っていたこともあながち嘘じゃないらしい。
へぇ、あいつも真実を口にできるようになったのか、
成長したな僕の友人Aよ。

「え、えとなにか私にご用でしょうかっ?」

 っと、いけないいけない。
脳内で友人に仮初の賞賛を送っている所為で
わざわざ見知らぬ男に話しかけられたのに律儀に返してくれた
素敵なうてこさんへの対応を忘れてしまった。
まったくその場にいなくても迷惑な奴だな僕の友人Aは。

 僕は若干距離があるため少々大きな声で
返答してくれたうてこさんになんて答えるかしばし考える。
ん~、ぶっちゃけノリで声をかけたからなぁ……。
まぁ適当に趣味は? とか、良い天気だね? とかお見合いでよくある質問でもしてみるか。

「え? しゅ、趣味ですか? え、えっと趣味は……」

 悩まれた。
おかしい、この手の質問は当たり障り無い無難な辺りなのに
一発目の質問ですげえ悩まれた。
俯いてる、歩いてないで俯いてるからうさんだ。
ちょっとよくわからない、誰だそれは。

「わかりません……」

 しばらくした後、すまなそうにそう言われた。
僕が彼女を虐めたかの様な気分にさせられる。

 このままではいけないと僕は謝罪と
特に用があって声をかけた訳ではない旨を伝えて
適当に考え事頑張ってねと最後に添え、
お辞儀と共にまたうてこさんになる少女を見送った。

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ホラーっぽくなるかと思っていたがかわいいじゃねぇかww


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