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うてこさんのお話 その一

 僕が始めて詩上至町にやって来た時だ。
スクランブル交差点の真ん中辺りで
地面を見つめながらゆっくりと歩いてる少女が居た。
長い交差点の横断歩道、その半ばを超えた辺りを彼女は歩いて居たのだが
歩行者信号は既に赤になり自動車用の信号も青から黄色に変わっていた。

 当然、普通の人なら慌てて引き返すか走って渡り切るかのどちらかだろうけれど、
その少女は俯いている為にそれに気づかずてこてこと歩いていた。
僕は危ないなぁとか思ってじっとそれを遠くから見ていたのだが、
不思議なことに信号が完全に切り替わっても停まっていた車は一台も動かず
クラクションを鳴らして知らせたりもしなかった。

 ただただ少女はその時間が停まったかのような交差点を
一人でてこてこと俯いたまま渡り切るのを待って、
そして少女が歩道を歩き始めてから車は一斉に発進しだした。

「それはうてこさんだな」

 この事を長いこと詩上至町に住んでいる友人に話したら、
珍しい物をみたなあ、と笑いながらそう説明をしてくれた。

「いつもうつむいてテコテコ歩いてるから
 うつてこで、うってこになってうてこさん。
 やっぱり女の子の名前は二文字か三文字がしっくりくるよなぁ」

 僕は正直この時、友人が変態なのではないかと言う疑念を一番に抱いた。
普通に考えればしょっちゅう俯いて歩いて回ってるからと言って
そこまで広域に知れ渡って愛称までつけられるような事ではないだろう。
もしかしたら友人は彼女の事を付け回して、
自分の中でだけその名前で呼んでるのかもしれない。

「いやいや。でもお前も見たんだろ? 交差点の光景を、
 この街の人間はみんな知ってる存在で、みんなうてこさんって呼んでる」

 思ったことをそのまま素直に口にしたら友人はそういった。
そう、確かに見た。彼女が渡り切るまで全ての車が当たり前のように停止し続けていた
あの光景を。まるで救急車が通るときのように、平然と。

 しかも問題なのはそこではない。
先頭の、歩いている少女が見える車が停まるだけならまだわかるのだが、
その後続車も救急車みたいに   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
サイレンが聞こえる訳じゃないのに黙って待っていた。

 つまり、後続の車も先頭でなにが起こっているのか把握していた。
青になっても先頭が動かないという事態に対して慣れていた、という事になる。

「……なんだよその顔は、まだ信じられないって顔だな。
 なんなら他の連中に聞いてみろよ、うてこさんって知ってます? ってさ
 みんな同じように言うだろうよ」

 そう自信満々に言い放つ友人に軽く引いて見せながらも、
道行く知らぬ人々にうてこさんって知ってますか?
とか聞くのも憚られたので一応納得してみせる僕。

「どうした? うてこさんに一目惚れでもしたのか?」

 やっぱり僕の友人は変態かも知れない。

―――

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