スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

僕は屑野朗のようです



 目が覚めると視界には見慣れた天井が目一杯広がっていた。
当然だ、目が覚めて知らない天井が広がっていたらおかしい。
拉致や記憶喪失か、それに類するなにかや順ずるなにかが起きている、
というかそもそも寝起きの頭で一々天井がどうこうとか意識しない。
僕が意識したのはだから正確に言うならば天井ではなく、
それよりも幾分高度を下げた空間に漂っている白い煙だ。


 火事だ。
とは思わない、僕にとってこれはこれでまた見慣れた物、
それでいて天井よりは意識するに値する物。
煙草の煙、ではない。
もっと悪質で素面で鼻腔に入れるにはそぐわない香りを伴う煙。
……いや、煙は大抵人体には害か。

「人の部屋で吸うのはやめてくださいと再三言っているんですけどねぇ……」

 起きて視界に入るのが天井と煙だけという時点で
僕が二段ベッドの上に居るか、もしくはこの部屋に家具がないか、
どちらかだということは想像がつくだろうけれど、僕の部屋は後者。

 なので僕は起き上がってすぐに目に入った
部屋の隅でパイプを銜えて不気味に笑っている知り合いに意味の無いとわかっている声をかける。

「あはは~、おはよう御茶ノ水君」
「誰ですかそれは……」

 呂律が回っておらず、且つ目が虚ろな少女の姿に呆れながら
床に手を付き立ち上がろうとして、
その手が床ではなく変な物体に触れたのに気が付いた。
ほぼメチルアルコールで構成された酒。スピリタスの瓶。

「……なぜこんな物がここに?」
「喫茶様が昨日いきなり火炎放射がやりたいって買ってきたんじゃーん」
「でしたっけ?」

 見ればなるほど、曝け出された壁の一部が焼けている。
壁紙だって意外と高いのに、僕は馬鹿か。
などと頭を抱えていると少女は一際強くパイプを吸い込み、
一拍置いてからぶはぁと親父のように大口を開けて煙を吐き
覚束ない足取りでこちらに近づいてくる。

「茶葉さん、キスしようぜー」
「嫌ですよ。吸ってるわにとキスすると確実に煙を送り込んでくるんですから」
「にゃはは~、だってつまんないもーん。つまんないつまんないつまんねぇ!
 なんで一人素面なんですかぁ? 馬鹿にしてんのか私を!」

 どれくらいの時間一人でやっていたのだろう。
この少女はうさぎよりも寂しがり屋で放置しすぎると手首を切る癖があるから困る。
……まぁうさぎの方の話はガセだけれど。

「……はぁ」
「んむっ!?」

 虚空を見つめ今にもぶっ倒れそうな少女が再度パイプを銜えて
煙を多量に吸い込んだのを見計らい彼女を抱き寄せ、
その唇に自分の唇を重ねて自身の肺に煙を送り込む。
途端強い酩酊感と高揚感が僕の身体を駆け巡る。
と同時に死にすぎた味雷を刺激する鋭く不味い味。

「……あー」
「うぇへへ。もっかいしよーぜー」

 一口分だというのに全身に蔓延る虚脱感と虚栄感。
これは今日一日もこの部屋からでられないだろうと
まだ正常に稼動する脳で判断した後、
へらへらと葉っぱと、多分キスの所為で笑う少女に再度口付ける。

「んふ~」

 それに対し目も閉じずにへらへらと笑う少女。
正直虚ろな瞳を虚空に投げる少女を至近で見つめるというのは
まだ少々素面が残る自分の精神衛生上よくないので、
だらんと下がった少女の手に握られたパイプを奪いつつ自分が目を瞑る。
なんと色気の無いキスシーンだろう。
でも問題ない、どうせ見てる人間など居ない。
締まりの無い少女の唇に自分の舌を割り込ませ
煙の味がする口腔を蹂躙する。

「んっ、はぅ……」

 途端に荒くなる少女の息、
抱きしめる腕の中で小さく跳ねる体躯。
丁度いい、どうせすぐ足元に先程まで僕が寝ていた布団がある。

 僕は少女の身体を力ずくで
へたれた薄い布団に少女を押し倒し、覆いかぶさる。

 状況の変化についていけない少女を置いて、
僕は奪ったパイプを銜えて煙を強く吸い込む。
肺に流れ込む中毒性のある濃い煙はすぐさま僕の正常な思考を奪い
そしてみるみるうちに脳髄を高揚感と万有感で覆ってしまう。

 息を止め、十分に毒素を巡らせてから、
先程したように少女に口付け煙の口移しを行う。
……あぁ、なんか楽しくなってきた。

「抹茶……」

 少女はここでやっと僕の名を呼ぶ。
けれど返事はせず、黙って僕は少女の衣服を剥ぎ取っていく。
少女の顔は相変わらずにやけ顔のままだが、
……よくみれば可愛いものだ。
可愛いどころか絶世の美女だ。
そうか僕はいままでずっと思い違いをしていたんだ、
青い鳥と同様、僕の望むものはここにあったんだ。
僕はきっと世界一の幸せ者なのだ。
世界はこんなにも愛で溢れ返っていて、
僕は愛に埋もれて生きている。
素晴らしきかな世界。
ラブ&ピース。

―――

「気持ち悪い……」

 ラストシーンの台詞を最初に持ってきてみた。
でも気持ち悪いものは気持ち悪かった。
いや、後遺症とかじゃない、
ハーブ系はそこまで強くないし酒やキノコ類と併用した訳でもない。
そうじゃなくて、なんというか。
毎度ながらの嫌悪感だ。
賢者モードみたいな。
トリップっつーかトランスしてる僕は正直気持ち悪い。
あと、隣の部屋から聞きなれた男の喘ぎ声が聞こえてくるのが拍車をかけている。

「あ゛ー。マジで薬が抜けた後のこの倦怠感が無ければいいんですけどねぇ……」

 幸福感もなにもあったもんじゃない。
抜けた瞬間に倍になって帰ってくるもんだから堪らない。
みれば先程ぶっ飛んだ僕が絶賛してた絶世の美女は全裸のままで汗とか色々に塗れて隣で寝てるし、
本気で死にたくなってくる。
中毒性も抜けた後の後遺症もない格安のドラッグってないものだろうか。
誰か開発してください。

 僕は近くに転がってるスピリタスの酒瓶を割って
その破片で自殺をしようかなぁとか考えていたのだが、
薄いコンクリートの壁越しに聞こえていた低い嬌声が
おきまりの五十音三文字目と同時に消えたことで思いとどまり酒瓶を床に戻した。

「とりあえず服を着ましょうか……」

 思えば少女だけでなく自分も全裸だったので
とりあえず周囲に散らばった服を回収して着ようとする。
が、汗やその他諸々の水分でずいぶんと着用するに適さない状況になっていたので中止。
別途新しい服を取り出して、汚れた服は近くのランドリーに出す予定の集まりに混ぜておいた。

「気持ち悪い……」

 再度劇場版の台詞を持ってくる。
先程までは神父のケツにキスだってできる位に幸せ絶頂だったのに、
本当、もうドラッグはやめよう。
と一日に二度位は平均でしている決意を新たにしてみる。
なにがラブ&ピースだ、道行く僕に投げかけられるのは愛でも平和でもなく石礫だ。
下手するとパンダに乗った青い連中に鉛玉すら撃たれかねない。

「そうか……。僕って屑野朗だったのか」

 再認識。
死にたい。

 一人欝に浸りながらとりあえず汗を掻いて身体に水分を与えてやろうと思い
狭く匂いの籠もった部屋からでると、
僕が扉を開けた音とほぼ同時に隣の部屋も開いた。
顔を出したのは先程の嬌声の主である顔見知りの下衆男。

「おっ、二重愛好者。生きてたのか」

 下衆男は僕の顔を見るなり、
汗で光る顔を笑みの形に歪ませて不愉快に声をかけてくる。

「……監獄こそ、今日も軽快に盛ってるようですね。
 本当、人の家でよくもまぁそこまでできますね、死んでくださいよ頼みますから。
 あと二重愛好者とか言うな下衆」
「だってそうだろうが? てめぇがヤんのはいつもマグロばっかりじゃねぇか
 マグロなんぞ死体とやってのとかわんねぇだろ?
 しかもどいつもこいつもまだまだ女って言うにははえーガキばっか。
 幼女愛好者《ぺドフィリア》と死体愛好者《ネクロフィリア》で二重愛好者《ダブルフィリア》ってな。
 いんやぁ俺もネーミングセンスあるとおもわねぇ?」
「そんなこと化物喰らいに言われたくはありませんよ。
 どうせ今日も顔面崩壊の熟女が相手でしょう?
 あんなの女じゃありませんよ化物です、よくあんなのでおったちますね?
 僕なら吐きますよあんな生物の全裸なんて」
「あぁ? 俺に喧嘩売ってんのか?」
「先に吹っ掛けて来たのはそちらでしょうに、
 僕は水が飲みたいだけですよ。というかそれ以前に僕の家に化物連れ込むな、
 奴ら外見もそうですけど臭い香水をつけたりして匂いがつくんですよ」
 
 言うだけ言って僕は目を逸らして
狭い台所の低いシンクからコップに水を注ぐ。
決して美味くは無い、ありふれた無色透明の水道水。
それを一気に飲み干し、再度水を注いで後ろの男に渡す。

「ん? あぁ、悪いな」
「こういう所は悪いと思うんですね君は」
「あー、まぁ"アレ”も悪いと思ってねぇ訳じゃないんだぜ?」
「でしょうね。それでいて継続するのが君って男です」
「そう怒んなよ。あんま表にださねぇだけで感謝もしてる」
「素直になれないってのが一つのアビリティとして認められるのは女の子だけです」
「……フィリア」
「化物専門家」
「よし、表に出ろ」
「いやですよ。なんでさらに汗をかかなくてはいけないんですか」

 半裸の男が二人ぐったりしながらの会話。
本当に実りの無い会話だ、絵にもならない絵図だ。
とりあえず僕は手近にある窓を音も無く開けて部屋の換気を促す、
このままでは家中不快な匂いで充満する。

 微妙に湿った身体にヒンヤリと形容するには
些か刺々し過ぎる冷たい空気が勢い良くぶつかっていく。
僕はため息をついて床に直接腰を下ろし、
ズボンのポケットに入れたままの一つの箱を取り出す。
拉げた、白いマイナーな煙草の箱。

「お前まだそんなの吸ってんのか?」
「僕は普通煙草は苦手なんですよ」
「メンソ系にも種類は色々あるだろうが」
「いいじゃないですか、これが好きなんだから」

 箱をあけて中からライターと煙草を取り出し、
箱同様に草臥れた煙草を銜えて火をつける。
フィルターから滲むメンソールの味が唾液に混ざって舌を刺激する。
僕の好きな感覚。

 吸い込み、肺に送り、息を止める。
工程はパイプと変わらないけれど、
感じるのは爽快感とニコチンの味。
酩酊感や高揚感は存在しない、落ち着いた感覚。

「ふぅ……」

 嘆息と同時に煙を吐き出した。
白い煙は冬の吐息の濁りとは違い、長時間眼前を漂い
やがて窓から入ってきた風に掻き消されてしまった。

 会話も無く、狭い空間で煙草を吸っては
流れる煙に視線をやってまた煙草を口にする。
そんな微妙な時間を怠惰に流していると。

「ゲホッ! ……えふっ」

 突然、僕の居た部屋から少女の咳き込む音が聞こえてきて、
次いでおえという単語と共に液体が床に叩きつけられる音と饐えた匂いが部屋から染み出してくる。

「おいおい、お前のダッチワイフが吐いてんぞ」

 うげっ、という表情を思い切り作って僕の方を向く下衆。
僕はその面に煙を存分に吐きかけて返事をする。

「一応言って置くと、今日はノリで連れ込んだ女でも仕事でもありませんよ」
「ってことはわにか? なるほどわになら仕方ねえな」

 薬物の多量摂取での嘔吐。
よくあることだ。僕の部屋でってのはあまりないけど、
つーかあってたまるかという話ですけど。

「景気良く吐いてんな、やけ食いした後に吸ったのか?」
「いっそ殺してください」
「やなこった」

―――

「いやぁ、参った。参ったくたびれた」

 先刻の醜態の結果を洗い流すためにシャワーに入ったわには
現在身体も髪も拭かず、服も着ず僕の隣に座りながらそう言いながら煙草を銜えて笑った。
台所の床は水で作られた足跡と、いくつかの小さな水溜りが偏在している。

「まさか寝ゲロする羽目になるとは思わなかった」
「笑って言うことじゃありません。そして服を着てください」
「相変わらず良い乳してるよなお前は」
「はっはー、お前には触らせねー」
「いや、そんなことは良いから服を着てください」
「はぁ? またゲロ服着ろってのか?」
「他にも服あるでしょうが、頼みますから、マジで」
「じゃあ俺が用意してやろうか」
「お前の用意する服は痴女でも着ないようなのばっかりじゃねえか、死ね」

 あの後、ゲロったわにを風呂に放り込んでから
布団と服を洗って床に散ったのを雑巾で拭いて部屋を換気してと
僕一人で非常に苦労した。
下衆野朗は野次を入れることしかしなかった、死ねばいいのに。
スポンサーサイト

Comment



 編集・削除ができます。
 管理者にだけ表示を許可する
 
 

カレンダー

 
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
 

アナログ時計(黒)

 
 

呟き

 

7shiicilou < > Reload

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。