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シロガネ山より 

 シロガネ山より の続き

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 一歩二歩。
水飛沫でできた霜をサクサクと音を立てて歩く。
もちろん戸は一応元の位置に戻しておいた、
せっかく少しは暖かいのだからできるだけそれは維持しておきたい。
薄い手袋越しに両手の平を擦りながら辺りを見渡す。

「うっ……」

 山の表面やその周辺に生息していたポケモンが挙って逃げ込んできたのだろう、
昨日よりもさらに強い視線、敵意や明確な殺意すらも四方八方から感じる。
この氷点下二桁を示しているだろう気温の中でも冷や汗が額を伝い、
そしてやはりそれは痛みを伴いながら瞬く間に凍結していく。
私はそれを手の甲で払ってから、また一歩一歩周囲を見渡しながらレッドさんの姿を探す。

「……え?」

 探し始めて数分程、
思ったよりもずっと早くレッドさんを見つけることができた。
できたのだけれど、私はその光景に圧倒されて声をかけることができなかった。


 水飛沫の原因の、轟音を立てて高所から叩き落ちる水。
滝。その圧倒的な暴力に近い水流の中に、レッドさんは居た。
動き、流れ続けてる水分は凍らないというだけで、
確実に凝固点よりも低温になっているだろう水流の中に。
しかも上半身裸という状態でだ。

「な、なにやってるんですか!?」

 先程、彼を探そうとした際に自身が懸念した雪崩の可能性も忘れて
私は状況を時間を掛けて飲み込んだと同時に大声をだしてしまった。
幸い洞窟内でも比較的開けた場所だったからか、
それとも最初から音を立て続ける滝の付近だったからか声はただただ響くだけに終わったものの。
背後で、周囲で、その声に威嚇されたと思ったのだろうポケモン達がざわめくのを感じた。

「……」

 考えてみれば、直接滝にうたれている彼は
私がここで聞こえる以上に滝の轟音に晒されているはずで
当然ながら私が大声を傍からだして呼びかけたところで聞こえるはずなど無いのだけれど。
しかし突然がらりと雰囲気を変えた野生のポケモン達の気配を彼も感じたのか、
閉じていた目を開いて滝からゆっくりと歩き出した。

「わ、わわっ!」

 そんな場合ではないのをわかっていても、
滝越しに歪んでいたレッドさんの身体に少々焦る私。
彼はそこで初めて私に気が付いたとばかりにこちらを見て少し目を細め、
そしてすぐに辺りを見渡して私が居る場所と反対側の地面に置かれた
彼の衣類の方に水を切って歩いて行ってしまった。

「っ! レッドさん危ない!」

 彼が背中を向けた事に安堵し、
その背中をなにくれとなく見つめていると
不意に一匹のニューラが岩場の陰からレッドさんに向かって疾走していった。

 二度目の大声。いや、むしろ絶叫とも言える呼びかけに、
しかしレッドさんは緩慢とも言える動きで背後に接近し
その長い左右の爪を自分に振りかぶり跳躍するニューラを眺めていた。


 いまから私がポケモンを出しても絶対に距離的に届かない、
レッドさんのモンスターボールは衣類と同じ場所に置かれている。
間に合わない、そう思った。
あの長い爪が彼の身体を貫き、切り裂かれる。
そう思った。そうとしか、思えなかった。

「ヂュウッ!」
「ニュッ……!?」

 けれど実際は違った。
爪を掲げ、高く飛び上がったニューラは滝から突如飛び出してきた
ピカチュウの鋭い電撃一閃を食らって一気に減速し、
レッドさんより随分手前で無様に顔から着水した。
べちゃりと、着水して、そのままぷかぷかと浮かんでいた。

「へ?」

 間抜けな声がでた。
素っ頓狂で裏返ったあとから恥ずかしくなるような声。
レッドさんはそれを華麗に無視して、
足元に居るピカチュウの頭を静かに撫でた。
そしてピカチュウは、身体の半分以上を冷水に浸しながらも
それに気持ちよさそうに答えている。


―――

 テント前の焚き火に戻ってから聞いたのだけれど、
単に私が予想外の出来事にテンパっていて気づかなかっただけで
あの時ピカチュウもずっとレッドさんの隣で滝にうたれていたのだそうだ。
曰くここで修行を始めてからの日課だそうで、
朝の水汲みも兼ねて数十分間あそこでよく滝にうたれているらしい。
あの後一回下に溜まっている水に手を入れてみたのだけれど、
表面全部に密着する分氷よりもよほど冷たく感じた。

 ジムリーダーのシジマさんがジムで滝にうたれていたのを見たときも驚いたけれど、
正直に言わせてもらえれば比べ物にならないと思う。
なんであんな冷たい滝に打たれたあとなのに平然としてられるのだろう?
本当に同じ人間なのかと不思議にすら思ってしまう。
ピカチュウだって、あんなに小さい身体で平然と、
体温だって、あっという間に奪われてしまうだろうのに。

「あまり、野生のポケモンを刺激しないように……」
「はい、……すみません」


 色々と説明を受けた後に以上のような小さなやりとりをしてから
焚き火で汲んできた水を沸かしてポケモン達と朝食をとった。
暖かいスープがこの寒い空間で酷く尊い物に感じる、
と同時に、申し訳ない気持ちは絶えずにでてくる。
勿論何度もそういった謝罪や感謝をぶつけるのも逆に鬱陶しいだろうと
できるだけ抑えてはいるものの、吹雪が止んだらレッドさんに
このお礼は絶対に返さなくてはと強く思う。

「あ、あの。私になにかできることはありませんか?」
「……?」
「お世話になりっぱなしってのも悪いですし、私としても居心地悪いっていうか……。
 それこそ水汲みとかなんだとか、雑用でもいいんで私に任せてください!」

 だから食事を終えて、ポケモン達が私のキュウコンとレッドさんのリザードンの周りで集まって
わいわいと談笑している和やかな雰囲気になった頃に、
唐突に私はそうレッドさんに詰めよった。


 狭い空間に微妙に木霊する私の声。
ポケモンたちが会話をやめてこっちに興味を示してひそひそしている。
どうにも私は学習能力が足りないらしい。

「…………」

 レッドさんは眉を顰めた後、
それでも私の心境を汲んでくれたのか
顎に手を当てて悩みだして。

「……いまは、特に無い」

 そう、あっさり告げた。
考えて見ればそれはそれで当然、
いまはこの洞窟に半ば閉じ込められてる状態なのだから
そうそうやることなんてありはしないのだ。
ただ吹雪が止むのを待ってるだけの現状では。

「そうですか……」

 当然、手伝いたいのに手伝うことがないと言われた私は
しょんばりしてしまう。空回りというか、肩透かしというか。


「でも……、ありがとう」
「へ?」

 それを受けてなのかなんなのか、
レッドさんは、そこで会話を終わらせずに珍しく言葉を続ける。
続けた言葉は、私への礼。

「今度からは、なにかあったら君に頼むことにする、から」

 無口なレッドさんが、言葉を選びながらもそう言ってくれた。
言ってくれて、小さく、慣れてないのがよくわかるような
ぎこちない微笑を、向けてくれて。
どういう理屈か、私の鼓動は跳ね上がった。
顔がかぁっと紅くなって、なにかを返そうとしても言葉が口をでなかった。
嬉しくて、嬉しくて、頭がよくわからないことになって。

「……?」
「ななな、なんでもありません!」

 不思議そうにするレッドさんに、
ぶんぶんと手を振ってそういうのが精一杯だった。
私はどうかしてしまったのだろうか。

 そんなこんな、言ってしまえばちょっとしたやり取りで
きっかけにしても些細な言葉の応酬だったけれど。
それでも自身の心情を吐露したのを発端に、
私とレッドさんの距離はある程度縮まったように思えた。

「ピカ?」

 挙動不審な私の元にやってくる彼のピカチュウ。
首を傾げて私を見上げる黄色い子の頭を、
なんとなしに撫でてあげながら深呼吸を静かに行って
ドクドクと早打つ心臓を宥めていた。







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