「たー」

 昼。食事を終えて日課の読書に勤しむべく書斎に足を運ぶ私の耳に、
相変わらずの力が抜けるようなゆるいメイドの声が届く。

「……」

 渡り廊下を歩いていた私はその声に足を止め、
柔らかく吹く風になびく髪を押さえながら声の方へ目を向ける。

「ったー」

 見れば、私の世話係であり、幼馴染であり、唯一の友人であるメイドが
洗濯物を干している様であった。
高いところにある竿――と言っても他のメイドは難なく使用している――に
その低身長を最大限に伸ばして掛け声とともに白いバスタオルを一つずつ干していく様は
非常に微笑ましく、同時にとても危なっかしい。

「こけるなよ」

 と言おうとした矢先。

「うわー!」

 彼女は自分の着用している制服――所謂メイド服――の裾に足を引っ掛けて、
干したばかりの洗濯物共々地面に倒れ付した。

「……期待を裏切らないなぁ」

 背伸びして両手を掲げるような体勢をしていた所為で
受身も取れず顔面を強かに打ったメイドのもとにつぶやきながら駆け寄る。

「鼻血、でてるよ」
「あうっ、居たんですか」
「洗濯しなおしだね。これじゃ」

 言いながら散らばったタオルを拾い集める。

「手伝うよ」
「で、でも……」
「いいじゃん。たまには友達の仕事手伝ってもさ」

 くしゃくしゃになったタオルを抱えてメイドに向き直ると
彼女は申し訳なさそうに「すみません」といった。

「違うでしょ?」
「あ、ありがとうございます」
「まだ違う」

 メイドはきょろきょろと彼方此方を見回して、
困ったような笑みを浮かべながら頬を掻く。

「――ありがとう、なっちゃん」
「どういたしましてゆーちゃん」
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「そ」

 私は読んでいた文庫本から目を離さず小さくクラス委員長に了承の意を伝える。

「簡潔ね、もっと言うことないのかしら?」
「最初からわかっていたしね」
「一人ぼっちも慣れているのね。素敵」
「それはどうも。用が済んだならどっか行ったらどうかな」
「えぇ、そのつもりよ。じゃあねいじめられっこさん」

 笑顔を絶やさないとお嬢様と評判の委員長はそういって
手をひらつかせながら私の元から立ち去っていく。
その後姿を横目で窺ってみれば、遠巻きに私と彼女の会話を見ていた他のクラスメートが
わっと委員長の元に近づいていき、ヒソヒソと何事かを話している。
時たま私を嘲笑の目で見るのも忘れない辺りがマメである。

「いじめられっこさん……ね」

 多分、私は世間で言うイジメという物を受けているのだろう。
それくらいの自覚は私にもある。
クラスだけではなく学年全体で人気者のウチの委員長様が直々に
“死んでいただけませんか?”をもっと直接的にした文言を机に書いたりするくらいだから、
結構なレベルで私は嫌われているのだろう。少なくとも学年全体で。

 けれど、私はそれをどうとは思わない。
家に帰れば親友兼任のメイドがいるし、一人なのは勉強が捗って良い。
自由時間も、まぁ読書の時間とイコールであると割り切ってしまっているし。
精神的な被害は特にない。

 彼女たちも、物理的な被害を出すと面倒になるのはわかっているのか
私物の破壊とか暴力とかは行わないし。実質無害だ。

「ふぁ……、眠い」

 文庫本を閉じてそれを枕代わりに机に突っ伏す。
夢うつつの中考えるのは修学旅行、一人でどこ行こうかなぁという事だけだった。
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「せ……」

 クーラーを環境破壊と労基法をことごとく無視の酷使をした私の部屋。
そこで私は例の如く文庫を片手に自身のベットに寝転びながら、
親友の提案したしりとりに付き合っていた。

「せみ!」
「ミンダス川」

 読書の片手間にしりとりをしてるだけの私を相手にした親友は
しかし真剣に悩んで少ない語彙から言葉を探している。

「わ~……わ~……、わき!」
「キリマンジャロ」
「ロボ!」
「ボスボロット」
「とり!」

 私の親友は決して馬鹿でも幼稚でもない筈なのだが、
二文字のおおざっぱなカテゴリを声高らかに上げる親友をみると子供にしかみえない。

「……」

 子供の遊びに付き合うのは親か子供。

「どうした~? 詰まった?」

 楽しそうに笑顔を振り撒く親友に、私は文庫を閉じて答える。

「りんご」
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「すっ」

 放課後、なんとなく体育館裏に足を運んでみると面白い光景にでくわした。
可愛らしい先輩と凛々しい陸上部の後輩が向かい会ってなにやらラブコメしていた、
多分告白シーン。

「好きです! 付き合ってください!」

 ほらね。
あまりにも捻りがない告白シーンに私は持っていた文庫で自分の額を叩きたくなった。

「私もずっとあなたの事が気になっていたの……、
 こんな私でよければ……」

 まさか私なんぞに覗かれてるとは思ってもないだろう成立したばかりのカップルは
感極まっていきなりキスをしだす始末。
うぅん、まったく。
これだから女子校ってのはおくが深いなぁ。
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「し~」

 教室で私の机に落書きをしてる同輩が居た。
丁度戸に背を向けて私が教室に着いたことに気がついてないようなので
そっとその後ろに接近してどのような芸術を私の机に施しているのか確認してみた。

「ね」

 確認の必要はなかった。
同輩は愉快にも内容を口にしながら書くという幼子の様な真似をしていたからだ。
そうっとその手元を覗いて見ればストリートアートというよりはタギングに近い
多色のポスカを使った命令系の死と言う単語が書かれていた。
――私の机はいつからリーガル・グラフィティの類に成り下がったのだろう。

「おはようございます。私の机になにか?」

 ある程度観察を終えた私は同輩に声をかけてみた。

「あらおはよう、今日も朝早くから真面目ね」

 同輩は最初からわかっていたとばかりに振り向きもせずに返事をして、
キュッと小さくペン先を擦らせる音を立てて落書きを終える。

「はい。終わったわ」
「どうも」
    ・・・・・・・・
 言って他のクラスメートの所に向かう同輩を私は少し眺めて
私は席に腰を降ろした。
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